これは、私が学生だった時の話です。
私の通う学校の北側に、JRの駅で「K駅」という駅がありました。
この駅は、坂道を登った少し高いところにあって、駅員さんのいない無人駅でした。
しかし、近くにバス停は無く、この駅を利用する人はたくさんいました。
駅の片側だけのホームには、雨よけの屋根の付いた部分が少しあるだけで他には何もなく、線路を挟んで、一方には住宅地、学校側に広い霊園がありました。
隣に霊園があるということで、この駅の周辺では、幽霊の目撃情報がたくさんありました。
私は、主に先輩方から聞かされていたのですが、その中で特に有名だったのが、三輪車に乗った男の子の話で、たくさんの人に目撃されていたそうです。
それは、最終の電車が出た後に、駅のホームを三輪車に乗った男の子が行ったり来たりしていて、目が合うと猛スピードで追いかけてくるというものでした。「あそぼー、あそぼー」
と言いながら、三輪車を思い切り飛ばしてくるそうです。
しかし、坂道を下って逃げ切れれば、それ以上は追ってこないということでした。
位置関係でいうと、坂道を登って踏切を渡ると左側に駅があって、その先にさらに道は続いていて、霊園の入口があります。
この霊園の入口に門があったかどうかは覚えていません。
ただ、さえぎるものはなく、誰でも自由に霊園の中を通れたと思います。
線路に平行するように、広い霊園があり、道もまた平行してまっすぐ続いていました。
この道はきれいに舗装されていて、学校からだと、近道で直接入れる横道がありました。
だから、近所の方や駅を利用する方の他、私達学生もよく利用していたのです。
ただし、霊園ですから、道の両脇はもちろんお墓で、塀などもいっさいありませんでした。
昼間でもなんとなく怖いと感じる時があり、私はあまり通らないようにしていました。
噂では、1人でこの道を通る時、怖いので自転車を必死にこいで早く通り抜けようと思うのですが、一生懸命にこいでも、重くて進めない時があるらしいです。
何体もの霊が、楽しそうに自転車の後ろに便乗してくるそうです。
飛ばせば飛ばす程、乗ってくるとのことでした。
長くなりましたが、ここからが私の体験した話です。
ある日サークル活動を終えて、夜の8時位でしたが、メンバー5人でご飯を食べようということになり、そのメンバーの中の1人の家に行くことになりました。
女の子が3人でその内2人が自転車を引き、男の子が2人で内1人が原付バイクを押していました。
お腹が空いていたので、近道の霊園の中を通っていくことになり、「5人いるから怖くないよね」などと話しながら霊園に入ったのですが、さすがに夜のお墓は、灯りも少なく静かで怖い。
道の先がぼんやり見える程度で、別世界のようなおどろおどろしい感じがありました。
これはちょっと怖すぎると思いましたが、引き返しても余計に時間がかかります。
私達は、仕方なく自転車2台にそれぞれ2人乗りし、後ろに原付バイクの男の子が付いてくる感じで、早く霊園を抜けようとスタートしました。
原付バイクのヘッドライトで道が少し明るくなりました。
しかし、少し進んだ時、急に原付バイクの男の子がスピードを出して、あっという間に、自転車2台の間を通り抜けて行きました。
私達は、びっくりして、原付バイクの方を見ました。
「うわぁー!」
私と誰かが声にならない悲鳴を上げていました。
なぜなら、バイクの後ろに人が乗っていたからです。
私達は5人でした。
2台の自転車にそれぞれ2人乗りしてましたから、バイクの後ろには誰もいないはずでした。
しかし、薄っすらとかろうじて人だと認識できる感じの白っぽいものが見えました。
バイクはスピードを上げて、あっという間に暗闇の中へと消えて行きました。 私達は、バイクの灯りを失って、暗闇の中に取り残されました。
2人乗りできつかったので、自転車は、無灯火で乗っていました。
しかしすぐに異変が。
必死に自転車をこぐ私達の後ろの方で、
ギコギコギコ、ギコギコギコ、ギコギコギコ、ギコギコギコ……
という不思議な音が聞こえてきました。
その音は、徐々に近付いてくる感じで、少し錆びた金属音のようにも聞こえました。
シーンと静まりかえった暗い霊園に、その金属音だけが反響して、いやでも聞こえていたのです。
ギコギコ、ギコギコギコ……
すぐ後ろに追い付かれたように感じて、自転車をこいでいた私は、振り返ろうとしました。
その時です。
私の後ろに2人乗りしていたA子が、 「見ちゃだめ! みんな見ちゃだめー!」 と大声で叫びました。
「三輪車、三輪車……! 見ちゃだめー!」
何がなんだか分からず、恐怖心もピークに達した私は、自転車をめちゃくちゃこいで、なんとか霊園を抜けました。
後から聞いた話ですが、原付バイクの男の子は、急に後ろに誰かが乗ってきた気配がして、取りあえずここを抜けようと飛ばしたそうです。
霊園から出たところで、何も感じなくなったとのことでした。
でも、あの白い人影を見たのは、私とA子だけでした。あとの2人には、見えなかったそうです。
そして、あの「ギコギコギコ」という異音は、4人全員が聞いていました。
A子曰く、あれは三輪車を漕ぐ音ではないか、とのことでした。
学校で聞いた三輪車をこいで追ってくる男の子の話を思い出したそうです。
目を合わせてはいけないとのことで、 「見ちゃだめ」 と叫んだそうです。
ただし、本当に三輪車の音だったのかどうかは、今となっては分かりません。
その後、私達5人には、特に何の異常も異変もありませんでしたが、会えば必ずこの時の話が出ました。
空腹で、2人乗りして、あんなに必死に自転車をこいで本当に怖い体験でした。