朝風呂

朝風呂は別に日課ではない。でも最近は何だかぼんやりとしていて気がつけば寝ている、なんてことが続いて仕方なく朝入っていたというのが正しい。

 その日の朝も半分寝ている頭でシャワーを浴びていた。熱い湯で空気は白んで、じっとりと重い。通りに面したすりガラスの窓は朝焼けに萌える通りがぼんやりとした陰映を映し出していた。私の部屋は鉄筋コンクリートの団地風アパートの3階にある。1階は空き店舗と働き者の新聞屋さん、二階から上が住居スペースとなっている。風呂場はどの部屋も廊下側に面していて、ちょっとしたサービスショットが見えないように背の高い壁というか塀というか柵というか、とにかくコンクリートでできたガードが窓の半ばまでそびえている。故に横滑り出し窓を開けても見えるのはコンクリートの廊下のみ。しかもこの窓、上の金具が錆びていてやっとこさ開くのは精々、10センチ程度である。非常に使いにくい。

 牛乳石鹸をしこたまタオルに刷り込みながら窓の方を見る。シャワーの音の向こう側で踏切の警告音が聞こえていた。

(あー、会社行くのだるいな…)

 警告音が止む。静かだった。ぼーっとしながら体を擦っていると磨りガラスの半ばぐらいにひょっこりと黒い影が現れた。それは止まることなく自転車ぐらいのスピードで滑るように通り過ぎて行く。長いのが靡いていたから、多分、髪の毛かな。それを見送りながらシャワーで泡を流す。そして考える。

(…何でここ、三階なのに塀の外を人が通り過ぎるんだろう)

 最近、割とこんなことがよく起きる。

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