廃墟に響く

これは、廃墟好きの知人から聞いた話です。

広島の県北にある閉館した遊戯施設の廃墟を訪れた、
そうここでは仮に今村君とでもしておきましょうか……

今村君は、その広い敷地を昼間から夜間まで、カメラ片手に楽しみ、
深夜になってからシュラフにくるまって眠りにつきました。

どの位たったか分からないそうですが、ふと人の声に彼は眼が覚めたそうです。

さすがに初秋とはいえ、夜は冷え込み、彼の息は暗い中でも白くなっているのが確認出来ました。

今村君が耳を澄ませてみると、たしかに数人の若い男女の楽しげな声が、
少し離れたところから聞こえていたとの事。

その廃遊戯施設は、心霊スポットとしても有名で、
きっと肝試しに来たグループでもいるのだろうと思ったそうです。

彼は、気にせずに再び眠ろうと目を瞑りました。

しかし、異変に気が付いたのです。

その楽しげな声は、段々と近づいて来て、
内容が聞き取れる程になったそうですが、その内容が……

それは、楽しげなのですが、念仏だったそうです。

今村君は、怖くなり再び目を開きました。

そこにあったのは、数人の男女が彼を覗きこむ不気味に笑う顔。

彼は、悲鳴を上げてシュラフから必死で抜け出して、走って逃げたそうです。

その広い敷地を叫びながら逃げた彼は、
外れに止めていたバイクに乗って人里まで下りて、まだ開いていた一軒のスナックに飛び込んだそうです。

「何かあったの?」

スナックにいた人々が、恐怖に青ざめた彼に声をかけてきました。

彼は、今あった事を説明しようとしましたが、そこにいたのはさっき彼を覗きこんできた男女でした。

彼は、どこをどう帰ってきたのか覚えていないそうです。

後日、その街に確かめに行った今村君ですが、そんなスナックはなかったそうです。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる