鉄塔

小学校6年生の時の話。

 

当時、私が住んでいた付近は田んぼと畑だらけの地域だったが、

急速に宅地開発が進んだ結果、小学校の児童数が急激に増え、

運動場の隅にプレハブ教室を建てるも間に合わず、小学校を一つ新設することとなり、

5年の三学期に児童の約半数が新しい学校へ行ってしまった。

仲の良かった子達も半数以上が新設校に行ってしまい、6年生になって少し寂しい日々を送っていた。

 

その日も、数の減った友人の一人を遊びに誘うも、習い事だか塾だかで遊べないという事で、一人で遊ぶ羽目になった。

まあ、一人で遊ぶといったって、特に何かをしようという事もなく、所在なく、

棒きれを振り回しながら、開発が進んだといってもまだまだ自然の多い里山をブラブラするだけである。

 

春の里山は木々や草花が芽吹き、山菜なんかも顔を出している。

ブラブラついでにそんなものも摘みながら林の中を分け入って行くと、突然開けた場所に出た。

 

テニスコート4面ぐらいの、短く小さい雑草がちらほらと生えているだけの白っぽく乾いた地面の広場。

その真ん中にはコンクリートの土台にそびえたっている高圧送電線用の巨大な鉄塔があった。

 

しばし鉄塔を見上げた。

鉄塔の背景には青空に雲が流れているだが、目の錯覚で鉄塔がゆっくり倒れてきているように見える怖面白い感覚を楽しんでいた。

「なにしてるの?」

そう声がして、驚いて視線を向けた。

電柱を挟んだ向こうに同い年ぐらいの少年が立っていた。

 

少年は無表情でこちらを見つめていたので、友好的に話し掛けてきているのか否かを判断しきれず戸惑っていた

「ここでなにしてたの?」

少年がもう一度聞いてきた。

 

ああ、ひょっとしたらこの辺一帯の山の所有者の子供かな?

だったら怒られるかもしれないけれど、と思いつつも私は手に持っていた、たいした量もない山菜を突き出した。

「草?」

少しだけ不思議そうな表情になって少年はそう言った。

「蕨」

と、山菜の名前を答えると 「わ・ら・び?」 と、更に不思議そうな表情で言った。

 

この時私は、この子は里山の子じゃないなと思った。

里山に住んでる子で蕨を知らない子などいなかったからだ。

 

なんだか私は少年より優位に立った気がして気持ちに余裕が出てきた。

少し冷静になってよくよく少年を観察してみると、確かに里山の子ではないかもという違和感がいくつかあった。

 

まず、服装がなんというか私立の小学校の制服の様なきっちりした身なりをしていた。

髪形はさらさらヘアの少し前髪をながした坊っちゃん刈り。

顔立ちは中性的で可愛らしい顔立ち。

色白で、なんというか『新品の人間』?という妙な印象を持った。

 

あと、この地域は関西なのだが、その子は標準語っぽい言葉を話していた。

少年は鉄塔を回り込みながら私に近づいてきた。

唐突に 「宇宙が好き?」 と聞いてきた。

 

は?と思ったが、確かに私は天文に興味を持っていた。

天体望遠鏡も持っていたし、天文ガイドという専門誌を毎月購読していたぐらいである。

「うん」

と答えると、少年はちょっとニヤッとしながら

「実はね、僕はね、宇宙から来たんだよ」

ちょっと空に目をやりながら言った。

 

「ぜったいうそやん」

と、あきれた感じで返した。

「本当だよ、宇宙船見たい?」

そう少年が言うので

「じゃ見せてーや」

と、若干意地悪そうな気持を乗せて言った。

すっ…と少年は人差し指を立てて指をさした。

指さしたものは鉄塔だった。

 

「え~!いやいや!鉄塔やん!スカスカやん!乗るとこないやん!電線ビューンて伸びてるやん!」

と、矢継ぎ早な関西人的ツッコミで否定した。

「バレないように鉄塔に似せてるんだよ、乗るところは地面の下にあるんだよ、電線はちょっとエネルギーを頂くためにつないでるんだよ」

少年も淀みなくそのツッコミに返してきた。続けて

「乗りたい?」

かと聞いてきた。

 

「乗せてくれるんなら乗せて」

そう答えると

「良いけどそれにはトレーニングが必要なんだけど、やる?」

 

私は、急激に面白くなってきているこのシチュエーションに全面的に乗っかる事にした。

トレーニングは、ものすごく普通というか、体育系クラブがするようなものだった。

 

広場周囲のランニングから始まり、側転や、現在では見ることがなくなったうさぎ跳びなんかもした。

少年は指示をするだけで、私の行動を柔和な表情で見ていた。

遊び相手もおらず時間を持て余していたから、なんだかとても面白かった。

 

やがて青空に茜色が滲んできて、町役場の質の悪いスピーカーから

「そろそろ帰りましょう」

と聞こえてきた頃

「今日はここまでだね」

と、少年がトレーニングの終わりを告げた。

 

てっきり今日宇宙船に乗れると思った私は抗議をしたが、

宇宙に行くのはそう簡単じゃないと言いくるめられ、また明日続きをしようと約束をして家路についた。

 

翌日学校で、昨日遊べなかった友人にこのこと話すと

俺も行きたい」

となり、帰宅後一緒に昨日の場所へ行った。

 

でも、行けなかった。

行こうとしてもたどり着けない、というか、その場所だったはずの所に開けた場所がなくなっていた。

一旦林を出て、もう一度試してみたがやっぱりそこはただ林の中だった。

嘘つき呼ばわりを始めた友人を引っ張って、林を俯瞰に見れる高台に登って見たが、やはり広場なんてなく、鉄塔もない。

そもそも鉄塔は全然別の場所に立っており、電線も昨日見た方向とは全く違う方向に延びていた。

 

それでもあきらめきれずに、最後にもう一度とチャレンジしてみたが、結局たどり着けなかった。

ふと足元に視線を下げた時、たいした量もない干からびた山菜を見つけた。

 

それを拾い上げ、これは昨日自分が摘んだもので、トレーニングの時の邪魔になるから広場のわきに置いたんだ!云々と

真剣に訴えかける私に、友人も少し恐怖を感じたのか「わかった信じる」と怯えた目で言った。

 

あの時、友人を連れて行かず独りで行けば会えたのか

それとも、妄想か幻のようなものだったのか。

今行こうにも、その林は開発の波に飲まれてもう存在しない。

 

通勤の電車の中で、私立の小学校の制服を来た少年を見ると、たまにこのことを思い出す。

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