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ここどこ?

同業者から聞いた話。
私は卒業以来25年近くに渡り葬儀に関わる仕事をして来ました。
今もまだ、現役で働いています。

今までお会いした数だけで言えば、優に1000を越えるご遺体と接してきました。
しかし、そんな中にあって心霊体験と呼べるような経験をしたことは一度もありません。
ですから、私自身個人的には、霊や死後の世界の存在などについてはあまり信じてはいません。

しかし、職業柄同じような境遇の人間は周りにいくらでもいる訳で、そういう人の中には、不思議な体験をした方は割りといるようです。

この話をしてくれたのは、フリーで葬儀の仕事を請け負っている女性で、色々な葬儀社からの依頼で現場の作業やご遺族の対応をする、そんな仕事をしている方でした。

この方もまた、別の人から聞いた話と言うことでしたが、それは恐いと言うよりも、少し物悲しく感じる、そんな話でした。

某市にあるU斎場と言う、火葬場に葬儀式場が併設されている市営のその施設は、業界の中でも「出る」と有名な斎場です。

その斎場には3つの式場があり、各式場にはそれぞれ、食事をするための控え室が付帯されていました。

第1式場と第3式場には、焼香が終わればすぐにお清めの席に着くことができるよう、式場のすぐ近くに控え室がありました。

しかし、第2式場の控え室だけは、なぜかかなりの距離を歩かなければたどり着けない場所に用意されています。
この第2式場のすぐ近くには階段があり、それをのぼれば、上がってすぐのところに同じような大きな部屋があるのですが、何故かこの部屋を控え室として使用することは決してありません。

それどころかこの2階にある控え室は全ての襖が固く閉ざされており、しかもその一枚一枚が、L字型をした金具で上部と下部の2箇所を柱に固定されたうえ、更にその金具に錠前までかけると言う念の入りようで、徹底して開けられないようになっています。
確実に出るので、誰かが間違えて開けたりしないように封印したとのことでした。

私にこの話をしてくれた恐いもの知らずの女性は、わずかに開いた隙間から中を覗いたことがあるそうですが、真っ暗で何も見えなかったそうです。

第2式場で葬儀のお勤めをするお坊さんの待機室はこの空かずの間の奥にあり、お坊さんにお茶などを持っていく時には、左手にこの締め切られた襖を見ながら歩くことになります。

長い廊下の左側は、ずーっと奥まで2つずつ錠前をかけられた襖が続く、それはそれは異様な光景だそうです。
ある葬儀社の女性で、鉄の女とあだ名され多くの男性スタッフからも恐れられている方がいるそうなのですが、この誰よりも強く恐い女性職員も、U斎場の2階だけはどうしても一人では上がれない、と言っているそうです。

前段が長くなってしまいましたが、そんないわくつきのU斎場である日とんでもない事件が起こりました。これは日中、斎場のスタッフのみならず、たまたま居合わせた葬儀に参列していた一般の方も含めて大勢の人達が目撃したことだそうです。

この斎場には火葬をするための建物と式場を結ぶピロティーがありその部分だけは表と中を隔てる壁が全面ガラス張りになっているのですが、その表側、雨避けの屋根がついているところで、3歳か4歳くらいの男の子が大騒ぎをしていたそうです。
その男の子は、大勢いる人達の中を叫びながら走り回っています。

それこそ大人たちの腕を取り、必死の形相で、
「ここどこ!?」「ここどこ!?」
と叫んで回っています。

周囲の大人たちは戸惑い、お葬式に必ず一人はいるお節介なおばさん、的な人が
「ちょっとこの子どこの子?」
と大きな声で斎場のスタッフを呼び、職員の人達も
「僕、どうしたの?」
「お父さんとお母さんは?」
などと声をかけ、何とか宥めようとしたのですが、男の子は一切聞く耳を持たず、ただ
「ここどこ!?」
「ここどこ!?」
と、パニックを起こしたように繰り返し叫び続けています。

そうやって大騒ぎをしながらガラス張りの壁に近づいた瞬間、男の子の姿はガラスの前でパッと、一瞬にして消えてしまったそうです。

その場にいた全員が目撃していた事件として、一部ではかなり有名な話のようです。

自分が死んでしまったことを理解できていないまま、気がついたら見知らぬ斎場で両親の姿もなく、パニックになった男の子の霊だろうか?と言うこの話をしてくれた女性の見解に、何だかとても悲しい思いがしました。

しかし、一緒に聞いていた同僚に言わせると、
それはうっかり時空の壁を越えてパラレルワールドに入り込んでしまったのではないか?」
と言っていました。

その考察も、その時の情景を思うと何となく納得がいってしまいました。
いずれにしても、恐い話であることに変わりはありませんが。

朗読: りっきぃの夜話
朗読: 朗読やちか

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