来たのは誰だ

遠くへ引っ越して以来、お互いに年賀状でしか音信のなかった友人ミヤチが久しぶ
りに同窓会に顔を見せていた。

集まったクラスメイトとの挨拶と乾杯が済んだところで、流れとしては自然に
ミヤチを囲んで、当時仲の良かったタムラ、カトウと自分が昔話に花を咲かせること
となった。

カトウ:「‥と、言うわけで、いまだにオレは趣味として深夜ラジオを聴き続けているわけさ」
自 分:「なんであの頃夢中になったかな~深夜ラジオ。流行りって不思議だよね」
タムラ:「あの時クラスで流行っていたものって、他に何があったかなぁ?」
カトウ:「一部でバンドがブレイクしていたような‥。」
ミヤチ:「あのさぁ、コックリさんが女子の間で流行ってたよな?」
カトウ:「あ~!あったあった。 ミヤチってアレを完全にバカにしてたよなw」
ミヤチ:「それでさ、お前らが覚えてるかどうか、ちょっと聞いてみたいことがあってさ‥」

以下、ミヤチの話 ―――――――――――――――――――――――――――――

 ちょうど今と同じこの4人で、放課後の教室でだべってた時の話だよ。
オレたちがたむろってる近くで、女子5人くらいでコックリさんをやってた。
こっちはこっちの話に夢中になってたっけ。
そしたら女子のひとりが声をかけてきたの、覚えてるかなぁ。

連休の天気をコックリさんに聞いてあげようか?って感じの内容だったと思うけど
「そんなのは天気予報見るからいらん」ってタムラが返事したっけ。
そしたら女子全員ブーイングでさ。夢がないわねぇみたいなこと言われたよな。
コックリさんをバカにしてると、呪われるわよ~とかも言ってた。
オレはまともに返事をするのもバカバカしかったけど、女子にキーキー言われるのもうざかった。

 そのうちに「何か訊きたいことはないの?」って言われたから、オレが

「ヒッグス粒子は存在しますか?って訊いてくれ」って冗談で言ったんだよ。

今でもあの時の女子の「は?」って顔を覚えてる。

それでも殊勝に
「コックリさん、コックリさん。ヒッグス粒子は存在しますか?」ってやってさ。
確か紙の上の十円玉は鳥居のとこからぴくっとも動かなかったな。
それ見ろ、全員が理解不能なことに関しては、誰も身動きできやしねぇよなって心で嗤ったよ。

オレは。

いぶかしげな顔した女子のひとりが
「ヒッグスってなぁに?」って聞くから、「外国人の名前だよ」って答えたら
「ヒッグスリューシなんて人がいるんだぁ」って別の女子がとんちんかんなこと言うんで

「ちげーよ!粒子だよ。重力粒子のことだよ!」って言ったんだ。
かなりバカにした響きが声に出てたと思うんだけどさ。
そしたら女子どもが神妙な顔しながらもう一度
「コックリさん、コックリさん。重力粒子は存在しますか?」って言いやがってさ・・・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

自 分:「覚えてないな~、そんなことあったっけ?」
カトウ:「オレは覚えてるぞ。 だがしかしそこで話を止めるな」
タムラ:「オレも覚えてる。 確か十円玉は『はい』に移動したはずだ」
ミヤチ:「そう『はい』に移動した。 しかもそのあとで訊いてもいないのに
『コドモデモ シッテル』って動いて、女子どもがもっと難しいこと 訊きなさいよぉって言ったんだよ」
自 分:「え? ヒッグス粒子って、存在が確認されたのは、21世紀に入ってからじゃなかったっけ?」
カトウ:「コックリさんの正体って、キツネとかタヌキとかテングとかそこらの霊とかさ。

良くて神様っぽいナニカとか、そういうもんじゃなかったっけ‥」
ミヤチ:「オレもそう聞いてる。 答えは確かに結果的に当たっていたさ。

じゃあ『子供でも知ってる』って応えた、あの時十円玉に来ていた誰かって 何だと思う?」

おっさん4人は、黙って考え込んでしまった。

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