xさんの昔話

私は、訪問介護の仕事をしています。介護ヘルパー、と言われている職です。
介護認定を受けた高齢者の、ご自宅に伺って、居宅生活上の支援をするのが仕事です。
皆さんは、認知症になったお年寄りは、皆んな何も判断がつかなかったり、
会話もできない、というふうに思っていませんか?
私は、この職に就くまでは、そんなふうに思っていました。
実際は、そんなことはありません。
ここでそれらの説明を長々とするのはお門違いかと思いますので、
割愛させていただくとして、とにかく、認知症の度合いによるとしても、
彼らの昔話は、ちゃんとしているのです。

xさんは、100歳になる女性です。
軽度の認知症があり、同じ話を繰り返したり、
新しく関わる人の顔や名前を忘れてしまったりはしますが、
筋道の立った会話のできる方です。
そして、とても聡明な方で、しっかりした時系列の昔話をされていました。

xさんは、ご主人、息子さん、そのお嫁さん、と、
3人の方々の看護をされ、見送ってきました。
私が、支援のために訪問すると、よく、ご自身の昔語りをされていました。
その話の中で、息子さんのお嫁さん、
つまり義理の娘さんを看護していた時のことを、繰り返しよくお聞きしました。
入院されていた義理の娘さんとの関係はとても良好で、
お義母さん、お義母さんと、何かにつけ頼りにされていたそうです。
その義理の娘さんの死期の色が濃くなってきた頃の事。
高台にあった病棟の病室で、ベッドから外を眺めていた義理の娘さんが尋ねてきました。
今日は、町内の集まりでもあるの?と。
数十年前までは、冠婚葬祭も自宅で行われていたし、
町内の関係も濃く、何かあれば寄り合いがあったのです。
ドブ浚いでもあるのかしら、あんなに外に人が集まってる、と、義理の娘さんは言ったそうです。
xさんもその方向を見てみるのですが、そんな集団は見当たりません。
どこどこ?
ほら、あそこ、すぐそこよ。
など、自分が見ているものの焦点を相手にも合わせてもらう、
もどかしいやり取りがありましたが、xさんには確認できませんでした。
どこにも、そんな人達居ないけどねぇ、と言うと、
あんなに集まっているのに、と、義理の娘さんは焦れったそうにしていたそうです。
そんな出来事があって、2〜3日後、義理の娘さんは、亡くなりました。

xさんが何の気なしにされた、看護にまつわる話です。

でも、私は、全く違う方面から、
とても似た話を聴いたことがあったので、ゾッとしました。

芸人さんの、入院中のお母様を見舞った幼い甥御さんが、
病室に黒い人が沢山いる、この人達がいると人が亡くなるからおばあちゃんは死んでしまうと言った、あの有名な怪談。

その他にも、沢山の人が亡くなる人の所にいた、
又はその本人が沢山の人が自分のまわりに居ると訴えた話は、ちょくちょく聞きます。

xさんは、義理の娘さんの死期が近づいたから、
そんな幻を見たのだ、という意味で話されました。

その話を聞いていた私は、全く関係のない間柄に共通点を見出して、ゾッとしたのです。
他人事として、フィクションとして聞いていた怪談が、急に隣にすり寄ってきたような、総毛立つ感じでした。

朗読: りっきぃの夜話

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