クリスマスのバイト

かなり前の話になります。

肉屋と魚屋が入っているような地元のスーパーで、
俺は、バイトをする事になりました。

時期は、クリスマス・イブの前日でしたね。
俺は、配属された肉屋でクリスマス用のチキンを洗っていました。

冷凍庫に保存されていた首の無い丸ごとのチキンを、
スーパーの裏手の外にある水道で少し取り残された羽毛を毟りながら、
丁寧にそれらを洗ってはトレーに入れて、明日すぐにロースト出来るように
店内に置いて行く作業です。

時期が時期ですのでとにかく寒かったです。
綺麗に洗う為にビニール製手袋禁止で素手で洗いますから、
もう手が悴んで冷たいというより痛かった。

それを丸1日続ける訳ですから、たまったものではなくて、
堪え性の無かった私は、もう辞めて帰ろうかとさえ思っていました。

ですが、どうしても欲しい物があったし、当時で言えば結構バイト料が良かったので、
ここは根性出すかと半泣きで続けていました。

夕方になってから、家族のある肉部門のパートさんや社員さんまで帰って行きました。
残ったのは数人のレジ係と店長だけ。
昭和の話ですから、もちろん24時間営業ではないし、
田舎のスーパーなので閉店も早い。

俺も帰りたかったのですが、明日までの洗わなければならないチキンの残りが
まだまだあって帰るに帰れない状況で……

やがて外は真っ暗になり、懐中電灯を立てて、
あと少しと思いながらも、外でチキンを洗っていました。

明日になれば、これを焼く係。
どんなに今日冷たくても、明日は暖かいクリスマス・イブが過ごせると、
もうそれだけを考えていました。

やっと最後のトレー分を洗い終わって、
それを持って肉屋コーナーの中に戻った時、俺は、目を疑いました。

そこら中に洗ったチキンが立って走り回っている光景に、
俺は、持っていた最後のトレーを落としました。

すると、その落ちたトレーのチキンまで走り出して……
俺は、思わず大声で叫びました。

その声に店長がカウンター越しに
こちらに駆け寄ってくるのが見えた所まで覚えています。

気が付いた時には、バックヤードに寝かされていました。

店長が気が付いた俺に、こう言ったのを覚えています。
「お前、せっかく洗ったチキンのトレー、全部倒してどうするんだよ」
俺は、必死で見た事を店長に伝えて弁明しましたが信じて貰えず、
「疲れてるんだろう。後始末は、俺と他の者でやっておくから、もう帰れ」
と言われました。

次の日、根性のない俺は、怖くて休みたかったのですが、
親が許さず仕方なくスーパーに行きました。

クリスマス・イブは、前日に起こった事が嘘のように何事もありませんでした。
ただ、チキンを焼くのは、寒くなくて温かかった程度ではなく、
地獄のように熱かったです。

朗読: かすみみたまの現世幻談チャンネル

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