もう一人

あまり怖い話ではないと思うのですが、聞いてください。

私の家族は、私含めて、兄、母、祖母の4人家族なのだが、
私が生まれた頃から私の家には奇妙な現象が多々起こるらしい。

その現象というのが、私の家は二階建ての一軒家なのだが、
一階の居間で家族みんなでご飯を食べていると、
二階から誰かが歩いているような足音が聞こえたり、
階段から誰かが下りてきたような足音が聞こえたり、
とよく怖い話とかで聞くようなありきたりな現象だ。

私は「幽霊なのかな?」と思ったが、実際に幽霊を見たわけでもないし、
一緒に住んでいる祖母が「風のいたずらさ」とか
天井裏をネズミが歩いているんだよ」と言っていたりしていたので、
私たち家族はその現象をあまり気には留めていなかった。

しばらくして、私が6歳になった頃ぐらいかな。
私と兄で一緒にお風呂に入っていた時なのだが、
その時は兄が「家のお風呂を露天風呂みたいにしてみたくない?」と言い始めた。
面白そうだったので、私はすかさず同意。
窓を開け、浴室の電気を消した。
唯一の明かりは外から差し込む月光と洗面所の小さな電気だけだ。
しばらく二人で湯船に浸かっていると、
視界の端で誰かが洗面所を歩いているのが分かった。

お風呂の扉は内側からも外側からも見えないように
モザイクがかった作りになっているのだが、
小さな子供が歩いていたのだけはわかった。
私は少し怖かったが、見間違えだろうと思った。

そう思った瞬間いきなり「パチッ!」と浴室の電気がついた。
私と兄は一瞬驚いたが、私は「やっぱり家族の誰かが洗面所にいたんだ」と思い、
お風呂から出た後、母と祖母に聞いてみたが、二人とも電気をつけてもいないし、
洗面所にも入っていないと言う。

不思議な現象はそれだけでは終わらず数年後、私が中学生になった頃だ。
親戚のおじさんが海外で仕事していて、ちょうど日本に帰ってきていているので、
私の家に一週間ほど泊まることになった。

私が学校から帰ってくると、おじさんは不思議そうに
私のことをしばらく見つめた後こう言った
「お前、さっき帰ってきたよな?」
私は訳も分からず「いや、今帰ってきたばかりだけど…」と返した。

おじさんの話によると、おじさんは一階の居間でテレビを見ていたら玄関から
「ただいま」と聞こえて居間の外の廊下を人が歩いていくのが見えたので、
おじさんは私が帰ってきたのだと思い、「おう、おかえり!」と返したのだが、
それからすぐに玄関の扉が開いて私が帰ってきたというのだ。

その夜、仕事から帰ってきた母が、
仕事中に自称霊媒師の人に声をかけられたらしい。
話の内容は
あなたの家、二階にトイレがあるでしょう?そのトイレに盛り塩を置きなさい。
だけど、一週間経ったらその盛り塩を捨てなさい。
特に害を及ぼす子ではないと思うんだけど…」
と言われたらしい。

確かに二階にトイレはあるが、なぜわかったのかが不思議だった。
でも、二階にもトイレがある家はそれほど珍しくないと思ったので、
あまり気には留めなかったらしい。

しかし、昼間のおじさんのことを話したら不安になったのか、
自称霊媒師が言った通りにした。
それ以来は特に変わった現象は起きていない。

足音は稀に聞こえるものの、前と比べたら少なくなったほうだ。
今では来年で私は20歳になるが、家族でこんな現象もあったよね。
などと今でも話もすることがある。

その時に母が言っていた話なのだが、私がまだ赤ん坊の頃、
母がお風呂に入っていると「ママ…」と呼ばれた気がしたので、
私か兄が呼んだのだろうと思い、母は咄嗟に「なにー?」と返事をしたが、
その後なんの返事はないので、私と兄に何かあったのだと思い、
慌ててお風呂から出て私たちのもとに駆け寄った。

しかし、私は寝ていて、兄はおとなしく祖母とテレビを見ている。
しかも母のことは誰も呼んでいないらしい。
それによく考えてみれば、母のことを「ママ」と呼ぶ人なんて
うちの家族には誰一人としていない。

この時、母が思ったことは、実は兄と私の間にもう一人子供がいたが、
無事に生まれてくることができなかったらしい。
この家の現象の正体は定かではないが、
もしかしたらその子なのかもしれない。
今はそう思っておくことにする。

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