きっかけ

私がまだ小学校低学年の頃の話です。
家族で広島駅に列車で向かっていました。

その頃のJRは、まだ国鉄と呼ばれている時代だったのですが、
地方という事もあってか、良く言われていたように車掌や駅員が
無愛想と感じた事はありませんでした。

途中の駅で急に列車がブレーキをかけました。
座っていた私や家族がつんのめる程の急ブレーキでした。
何があったのだろうと思っていると、私たち家族が座っている席の下を
外の人たちが覗きこみ始めました

私も何があったのか気になって、一旦列車を降りると、
人の間を何とか擦り抜けて前に出ました。

そこで見たものは…… 私たち家族が座っている席の下には、
紺色の浴衣を着ていると思われる老人がバラバラになっていたのです。

頭は潰れて片目は飛出し、首からは血が勢い良く吹いており、腕や足は千切れ、
腹の辺りは潰れて切断されそうになっており、腸もはみ出していました。
かろうじて繋がっていた腕の1本もあり得ない方向に……

それは、私が初めて見る人の死でした。
私は、吐き気を抑えて列車に戻り、席に座りました。
両親や兄は、色々聞いてきましたが、しばらく話す事さえ出来ませんでした。

人は、あんな風に死ぬ事もあるんだ……
初めて見た遺体が、轢死体というのは、かなりのショックでした。

やっとの事で、両親と兄に席の下にバラバラの死体があると告げると、
両親は、私と兄を連れて、別の席へと移動しました。
しばらく母は、私を抱きしめていてくれましたが、
吐き気と身体の震えが止まりませんでした。
そして私は、ホームから目が離せなくなっていました。

「完全に死亡が確認されんと、列車は出んじゃろう。
生きとったら問題になるけぇのぉ」
と父がボソッと呟きました。

どれ位経ったでしょうか?
兄が「救急の人が外に出したよ」と言ってから、しばらくして列車は発車しました。
私は、母に抱かれたままでずっとホームに目を向けていました。
私には、そこにあの老人が立っているのが見えていました。
血だらけで…… 片目をぶらぶらさせて…… その時からです。
私が霊という者を頻繁に見るようになったのは……

朗読: 怪談朗読と午前二時

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