私の妻は霊感があるようで、
付き合いはじめてから何故か心霊体験することが多くなり、これはそのうちの一つです。
私の妻は釣りが趣味で、私はあまり得意ではありませんが、付き合いでよく夜釣りに行っていました。
青森県の太平洋側に住んでおり、近くに釣りのポイントもたくさんあるのですが、たまには違うところで釣りをしたいという妻の意見から、日本海側まで車を走らせることにしました。
釣り雑誌を見ながら釣りたい魚を決め、その魚がよく釣れるという漁港までひたすら走っていましたが、近づくにつれて雨風は強くなり、目的の漁港に着いた時には強風とどしゃ降りで、立っているだけで体力がもっていかれるような状況でした。
他にも釣り目当てで来ているような車は二台ほど止まっていましたが、どちらも車内で天候が回復するのを待っているようです。
私たち夫婦もしばらく待ってみましたが、天気は良くなるどころか更に強さをます一方で、帰ることも考えましたが、片道五時間かけて来たこともあり、このまま帰るのはもったいないと少しだけ釣ることにしました。
妻は慣れた手つきでライフジャケットをつけると釣り道具を持ち、遠くまで歩いていってしまいました。
あまり馴れていない私は車の直ぐそばで準備をして釣り糸を垂らしたのですが、風が強すぎてあたりが全くわからず、ただ餌をとられるだけでした。
それから天気の悪い中釣りを続けていると、何をいっているかはわかりませんが女性の声が聞こえ、そちらを向くと妻が歩いてきていました。
やっぱりこの天気だから諦めようと言っているんだなと解釈し、釣り竿を片付けて車に戻りました。
二人で車に乗り込み、その漁港を後にした後の夫婦の会話が以下の通りです。
私「やっぱり釣れなかったね」
妻「こんな天気だとは思わなかった。天気予報と全然違うし」
私「仕方ないよ、初めて来る場所だし」
妻「そっちが声かけてこなかったら、もうちょいやってたかも」
私「え? 声なんてかけてないけど」
妻「はっ? よく聞こえなかったけどなんか言ってたじゃん」
妻の話では防波堤の先で釣りをしていたが全くアタリがなく、ポイントを変えようか迷っていた時に男性の声が聞こえ、近くに誰もいなかったことから、私が妻に向かって帰ろうということを叫んでいるのだと思ったそうです。
確かに、私が釣りをしていたところと妻が釣りをしていたところは、漁港の入り口付近と端で大分距離が離れていました。
冷静に考えれば暴風雨の中で、よく聞き取れないとはいえ声が聞こえるのもおかしい話です。
その事実に気づいたあと、家に着くまで会話らしい会話もなく、ただひたすら車を走らせるだけでした。
家に着いた時には日が登り朝になっていましたが、眠気はなく、とりあえずリビングのテレビをつけました。
地元の情報番組が流れる中で、二人とも釘付けになったニュースがありました。
私たちが釣りに行った漁港の沖で、漁をおこなっていた漁船が転覆し、70台の夫婦が亡くなったというニュースです。
私たちが聞いた声は魂だけになった夫婦だったのでしょうか。
未だに答えは出ませんが、その日以降夜釣りに行くことはなくなりました。