武装心霊探訪

私が、営業職に就いていた頃の話。

趣味はエアーガン集めで、エアーと言っても正確にはガスを使う本格的な物がほとんどでした。威力も抜群で、弾も3、40メートルは軽く飛んでいく優れものだったんです。

さて、仕事は契約を取ってなんぼの完全歩合制。
基本給なんて全くなく、己の能力次第でその月の給料が決まる過酷なものでした。
上司も大変厳しく、車で現場に置き去りにされたことも何度もありました。

歯を食い縛り、懸命に仕事に没頭していたある日の夜。
出張先のホテルでベッドに沈んでいると、私を呼ぶ声がしました。
上司でした。心でウザイと思いつつも、渋々ドアを開けると、酒の入った袋を持って部屋に入って来ました。グビグビ喉を鳴らしながら酒を飲む上司。
これほど人を嫌いになったことはありませんでした。

突然、「おい、心霊スポット探せ。この辺にないか?」と聞いてきました。
私は、「はぁ、この辺りならよく出るって噂の廃屋ありますけど…好きなんですか?オカルト」すると上司は、憎たらしい笑みを浮かべて、「別に信じちゃいねぇけどよ、面白いじゃん、見えもしねぇもんが見えるとか。それに怯えてアホ面してる奴とか」
こいつ憑かれて死ねばいいのに。なんて思ってしまいました。

ちなみに私と家族は全員霊感が鋭いと昔から言われてきました。
橋の下の川をずっと見つめてる、肉の溶けかけた青白い顔の中年男。
透ける猫や、山で臭う線香の香り。
あり得ないものをあり得ないと感じることが出来なくなっていた私は、どうしても行く気にはなれませんでした。…実は知っていたんです。上司の悪い癖を。

社長から聞かされていたわけで、事前に準備もしていました。
それが、武装心霊探訪。
戦闘用の高輝度ライトや、フルカスタムガスガン、予備弾倉にBB弾。
知らない方の為に書いておきますが、塩が必ず効く保証なんてどこにもありません。
古い霊ならいざ知らず、近代における心霊の類いに古事記に記された記述が通用するか、分からないことが多すぎるのです。

現実的に考えれば、霊魂はいわば微弱なエネルギー。
それを感覚で捉えることが出来るか否かは、本人のアンテナによる…と私は考えています。エネルギーが襲ってくるのなら、違う物理エネルギーをぶつけてやれば攻撃したと見ることができるはずです。
というわけでいざ現場へ。…って早速いるじゃありませんか。
廃屋内にこちらを睨み付けてる女の姿が。
上司全く気付いてないし。
ため息混じりで車から降り、装備チェック。
異常がないので接近。…来たら殺す。

そんな顔で睨まれてる上司と私。呑気に背伸びしてるアホが一人。
銃の安全装置を外し、戦闘態勢。ここで視界がボヤけてくる。
フィルターが掛かったようになり、合わせてきたなとすぐに感じました。
さらに近付き、女の約20メートル付近で膝立ち。
銃口を女に向け待機。アホはずかずかと危険範囲に入っていきます。
こいつは放っておこうと思い、引き金に指をかける。
ここで異変。
やられた、撃鉄が落ちない。
撃てない。何度やっても撃てない。
女がニヤリと気味の悪い笑みを浮かべる。
すぐさまライト点灯、ストロボフラッシュで威嚇。
女が一瞬怯んだのが分かり、銃口を再度向け発砲。
鋭い炸裂音と共に弾が女の元へ。
…消えた、と思った瞬間。
「連れていくから」耳元で一言。

私はまだ、生きています。

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