ピンヒール

 私の高校時代のある先生はとても霊感が強く、普段から霊が見えるとの事でした。
 これはその先生が体験した最も怖かった話です。

 先生は大学生のとき山の近くの寮で暮らしており、寮に行くまでの道のりは、山に沿ってある細い一本道を通らなければなりませんでした。
 ある雨の日、先生は友達の家で飲み会をしており、雨が強くなる前に先に歩いて寮に帰ることになりました。
 夜中という事もあり、人気のないこの一本道は更に寂しく感じるもので、聞こえるのは雨の音だけでした。
 すると、いつからしていたのか、背後から コツコツコツコツ、と足音がしている事に気が付き、直ぐにハイヒールの音と分かり、同じ寮の女の子かな、と思いました。

 しかし冷静に考えて、こんな夜中でしかも雨の中、女の人が1人で歩くのは少し不自然。
 そう思った途端、急に怖くなり先生は早歩きをしました。
 すると背後から聞こえてくる足音も コツコツコツコツコツ! と早くなり、これはやばいかも知れないと感じ家まで傘もささずに猛ダッシュをしました。

 家に着いたあとは玄関や窓の鍵を全て閉め、シャワーを浴びそのまま寝ました。
 無事朝を迎え、ベッドから起きると部屋中が水浸しでした。
 初めは酔ったせいでシャワーのあと体を拭かずに寝たのかなと思い、渋々近くにあったタオルで床を拭き始めました。
 するとある違和感を感じ、この違和感の正体に気がついた時は心臓が止まるかと思いました。
 具体的に何が変かと言うと、床を濡らしている水の配置です。

 ベッドから玄関に向かって、右 左 右 左 と、小さい水溜まりみたいなのがずっと続いていたのです。
 そう、まるで人が歩いて来たかの様に。
 まさかと思い玄関まで走りドアを開けると、目の前に水で出来た小さな丸い跡が横並びに2つあったそうです。
 もう分かったかも知れないですが、これはピンヒールのピンの跡です。

朗読: 小麦。の朗読ちゃんねる

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる