横切る

 これは私が高校1年生の時のこと。

 私は元々霊感が普通の人より少し強く、嫌な気配を感じやすかった。
だからそういう場所などは極力避けて今まで生活をしてきた。今もそうしている。
 それでも、如何しても防ぎきれないものも幾つかあり、その都度苦労して離したり、もうどうしようもないものは今でも家に居候させたままのもいる。
 自分が痛い目に遭わないようにするにはただひとつ、気づかないこと。
 そうすれば、大体の被害は防ぐことが出来る。
 今回も、いつも通り気が付かないフリをして、やり過ごそうと思った。

 そいつは、私の視界の隅に映って、私の横を「横切る」のだ。
 別に、足音とか、声とかが聞こえる訳では無い。ただただ、私の視界の隅に映るのだ。
 他の奴と同じ様に気を引きたいのか、それとも私に対して無関心で家をさ迷ってるだけなのか分からないが、私は何も反応しないでいつも通り生活していた。

 そんな生活が半年くらい続いたある日、奴の動きが少し変わった。
 今まではただ横切るだけだったが、「立ち止まる」ようになった。
 それでも少し時間が経つとまた歩き始めて消えるので、特に気にしてはいなかった。
 しかし、それから更に数週間後、立ち止まるだけでなく、やつの足が、視線が、こちらを向いているのだ。
「やば、気づいてるのバレた?」と内心焦ってはいたが、それでもその感情は外に出さないように、平常のフリをしていた。

 そして更にその数日後、私が休日リビングで昼寝をしていると、声が聞こえてきた。
 母の声だった。
「りさ! りさ! 起きて!」
  母は私の身体を揺さぶり、起きろと言ってきている。私は半分起きていたが眠かったのでそれに反抗して起きなかった。
 すると、私の身体を揺さぶるのをやめ、ボソリと呟いた。

「起きろよ」

 私はゾッとした。
 今までの起きての声は母の声だったのだが、いきなり声が変わった。冷めきった男性の声。
 母の声だと思っていたのは、恐らく今まで私の横を「横切っていた」あいつの声だったのかもしれない。
 だって、それ以外思い当たる節がない。
 父は単身赴任で家にいないし、弟は部活で昼まで家にいない。
 母も、こんな口調は絶対しないし、声もこんな低くもない。
 なのに、今目の前にいる「何者か」は、明らかに男性の声をしている。冷ややかな声で「起きろよ」と言った。

 これは反応してはいけない。やばい。
 本能的にそう思い、私は必死に寝たフリをした。
 心臓がバクバクして、バレるのではないかととても焦った。
 いつの間にかそのまま寝てしまったのだろうか、次に起きた時外ははとっくに暗くなっていて、母は夕食の支度を、弟はリビングでTVを見ていた。
 私は、奴はもういないことを確認すると、安堵のため息を吐いた。
 しかし同時に、また奴が寝てる間に来たらと思うと、ゾッとした。

 それからはそのような事はなかったが、相変わらず奴は私の横を「横切」っている。
 ただ、少しずつ、本当に少しずつ、横切る距離が近くなってきているような気がする。

 今、私は高校3年生だが、奴と私の距離は、最初の半分くらいの距離である。
 横切る頻度も多くなっている。
 若しかしたら数年後、いや数ヶ月後には……考えるだけで恐ろしい。

 誰か除霊出来る方、詳しい方、助けてください。

朗読: ジャックの怖い話部屋

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