深夜の雪かき

3年前ぐらいの話です。

私は雪深い町に住んでいて、隣近所も独居老人の一軒家ばかりでした。
自宅の周り四軒ほどのおじいちゃん、おばあちゃん宅の雪かきするのは大変骨が折れました。

毎日三時に起きて、順番に雪かきをしていくのですが、除雪車が来たりすると家の前が雪で一杯になるのです。
道路に出て、その山盛りの雪を雪かきで押して行きました。
深夜で、雪が降り積もっていることもあり、怖いくらいに静まりかえっていました。

「さすがにまだみんな起きてないよね」

独りごとながら、白い息を吐いて一休みしていると、遠くに人影が見えました。
知らない人だったら挨拶すべきかどうか・・・とくだらないことを思いながら、また仕事に取りかかりました。
小さかった人影が気になり、ちらりと目を上げると、その人は意外なほどの健脚で、ふらりふらりと左右に揺れるものの予想より近くまで来ているようでした。

街頭に明かりが雪の白さに反射して、人影を黒く浮かび上がらせています。
目線を手元に映し、ふとまた人影を見やると、ぐんと近づいてきているようです。
気味が悪くなってきました。

人っ子一人いない静まりかえった中を黒い人影がワープでもしているかのような勢いで進んでくるのです。
不安感に目をそらすことができなくなりました。そして気がつきました。
ゾンビかなにかのようにゆらりゆらりと左右に揺れているのです。近づくたびに異様に気がつきました。
人影じゃなく、黒いのです。 街頭の真下にいても、黒いのです。
それも、黒いボールペンかなにかでぐちゃぐちゃに塗りつぶしたような、その線が生き物か何かのようにざわざわとうごめいているのです。
頭の中がフリーズしたかのように、私はそれから目が離せませんでした。
体が瘧のように震えました。

また、ぐんっと人影が近づきました。 

あのときの恐怖も、不安も、その黒い人の描写もうまく表現できません。
ただ、もう2度と深夜に雪かきはしないであろうことと、あれが何だったのかとか分からないですが、それは私を通り過ぎていきました。
その後、私には何の障りもありませんでしたし、隣近所のご老人方に何かあったなんて事もありませんでした。
1月1日の午前3時のお話でした。

朗読: 朗読スル脛擦(すねこすり)
朗読: 榊原夢の牢毒ちゃんねる
朗読: 繭狐の怖い話部屋
朗読: 怪談朗読と午前二時
朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる