助かった。

これは2年前に体験した話。

当時俺は、とある機械製造会社の営業担当をしていた。
小さな会社ではあったが、評判も良く、色々なところに営業に行かされた。
県外に出ることも多く、帰りが夜中になることもしばしばあった。
俺の母親は霊感があり、遺伝をしたのか俺にも多少、霊感らしきものがあるのだと思う。
だから、夜中の帰り道に白い影を見たり、車に子供の手形がたくさん付いてたりしたこともある。
因みに俺は結婚もしてないし、子供もいない。

そんなことは置いといて。
これはその、日帰り出張から帰ってくる時の話だ。
その日も俺は営業に行く予定があり、Y県へ訪れていた。
そしていつもの如く遅くなってしまった。
時計を見ると21時、食事を軽く済ませ、少し仮眠を取ってから帰ることにした。

目が覚めると日付が変わり、0時30分。
「そろそろ帰るかぁ」とあくびをしながら呟き、「その前に、」とタバコに火をつけて一服した。
車内にはラジオが流れており、普段使っている高速道路が夜間工事で渋滞しているとの情報が入った。
まじかよっ!とは思ったが、職業柄下道もすでに熟知していたので、最短ルートで帰ることにした。

走り始めて30分ほどすると山道に入った。
山道といっても、かなり広い道でしっかり舗装されている。
しかし街灯も無く、両脇は森林。そして走っている車は俺だけだった。
時間も時間だったし辺りは真っ暗、流石にちょっとビビってた。
しばらくすると後方から車のヘッドライトがルームミラー越しに見えた。
少し安心したが、その車は車高の低い真っ赤なスポーツカーで、猛スピードで近づいてきて、勢いよく俺を追い抜かしていった。
だんだんとスポーツカーのテールランプが小さくなっていき、また辺りは真っ暗になった。

そしてその瞬間、ゾクっと全身に鳥肌が立った。
嫌な予感がしてルームミラーを見た。ソレがいた。
俺の左後ろの後部座席、真っ白な服を着た女だった。
べたついた長い髪で顔は見えなかった。
しかし、俺はこういった類の物は慣れている。
一瞬ビビったが、気づいていないフリをしていよう。と思い、平然な顔で運転を続けた。

すると女がなにかを喋り始めた。 「…って」「…って」 俺は完全にビビった。
今までは幽霊らしきものは、”見たことがある”程度だったが今回は違う。
近くにいるうえに何かを喋っている。
俺は心の中で「俺には何もできない、頼むから消えてくれ」と何度も願った。
しかし女はずっと「…って」「…って」と言っている。
声が小さくてうまく聞き取れなかったのでラジオのVol.を下げた。
すると「..まって」「..まって」と言っていた。

俺は何を待てばいいのかわからないし、早くこの状況から抜け出したくてたまらなかった。
しばらくその状況が続き、一直線だった道がカーブに差し掛かった。
その瞬間女は、「止まって!!!」と今までとは違いかなり大きな声で、言葉を発した。
ビビりながらもどうにか平然を装っていた俺も流石に驚き、キキーッと急ブレーキを踏んだ。
ルームミラーを見ると女は居なくなっていた。

その時は女が何故現れ、消えたのか、わからなかった。
が、消えたことに安心して走り始めた俺はすぐにその”答え”がわかった。
カーブを抜けた15mほど先、俺を追い抜かしていった真っ赤なスポーツカーと対向車線の大型トレーラーが事故を起こしており、道が完全に塞がっていた。
あの時急ブレーキを踏んでいなかったら、かなりのスピードを出していた俺はそのままこの事故に突っ込んでいた。
「助かったぁ、、、」俺はびっくりしながら呟いた。

その後警察と、救急車が来て無事死者もでず、ことが終わった。
あの時の女の霊はこの事を予知し、俺を助けてくれた。

今まで霊に対し恐怖心しかなかったが少し見方が変わった。
以上が俺が体験した話。

朗読: 怪談朗読と午前二時

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