ビデオテープ

 僕が小学5年生の時に体験した話です。

僕は幼い頃から父の影響で心霊や怪談モノが大好きで、暇さえあればネットでホラー映画、怪談を拝見、拝聴していました。
 でも心霊系が好きではありましたが、 大のビビりでホラー映画の驚かしてくる演出とかは何十回同じシーンを見ようがずっと 「うわぁぁ!」と声に出してビビってました。
 僕のこのリアクションが父、母、姉にはどうやらツボだったようで、 姉なんかはわざわざホラー映画の驚かしてくる演出のみを切り取った映像を作って、僕に見せてリアクションを楽しむくらいでした。

 ある日、父が仕事の帰りに近くのレンタルビデオ店から心霊映像集みたいなものを5作ほど借りてきました。
 VHSって今の時代の子に伝わりますかね?
 ニンテンドースイッチの両脇のコントローラーを外したくらいの大きさで、中にビデオテープ(正確には磁気テープと言うそうです)が入っているものが昔はあったんです。
 ビデオ店の名前がデカデカと書いてある袋からVHS5本を取り出し 「よし! 見るか!」と何故か張り切ってる父。
 すると姉が 「お父さん? まだ1本入ってるよ?」と言いました。
 父が 「え? そんなはずないぞ? 借りてきたシリーズは5までだし、1本100円でお父さんは500円しか払ってないから5本のはずだ」 と不思議そうな顔をしました。
 母が 「前の人が借りた作品が入ってる状態で店員さんが入れちゃったんじゃない?」と言うのでみんなはそれで納得していました。

 いざ見てみるとネットで見たことあるものばかり。
 しかもビビる系のものではなかったのでみんなはちょっと残念そうにしていました。
 気がつくと深夜1:00。
 ビデオ5本が見終わり、あとは謎のビデオ1本となりました。
 父は子供に悪影響を及ぼすヤバいものかどうか、一旦確認するために自分にしか見えないようにテレビを向け、リモコン片手に操作していました。
 父が「うーーん……」と唸っていて 「なんかあったの?」と聞くと「いや……作り物なんだろうけど……不気味なんだよなぁ……」と言いました。
 意味がわからず僕と姉がそのビデオを見ると、どこかの更衣室?のような部屋で天井からロープを垂らし、首吊りをしている女がこちらに背を向けてぶら下がる動画が約5分続いてました。
 僕も姉も「なんじゃこりゃ」と思わず口にしてしまうほど謎に満ち溢れていたビデオでした。
 父は「返却の時、店員さんに聞いてみるか」と言いその日は寝ることにしました。

 家族が寝静まった深夜3:00、僕はパッと目を覚ましました。
 自分でもなんで起きたのか分からなくて、また寝ようとして目を瞑った時、リビングから光が見えてたんです。
 その光はドアの隙間から出ていて、テレビでも消し忘れたのかなと思い、隙間から部屋を覗くと、姉が1人でさっきの首吊りのビデオを見ていたんです。
 姉は5分経ってビデオが止まったら高速の巻き戻しをして最初から見て、終わったらまた高速の巻き戻しをして、を繰り返していたんです。
 怖くなった僕はドアを開け姉の肩に手を添えて 「お姉……ちゃん?」 と言いましたが、姉はテレビから目を離そうとしないのです。
「お姉ちゃん! お姉ちゃんてば!」
 と何度も呼びかけるうちにあることに気がついたのです。
 姉が見ていた首吊りのビデオに写ってる女は、さっきまで背を向けていたのにどんどんこっちを向こうと回っているんです。
 僕は瞬間的に危ないと思い、ダッシュで寝室に戻り、寝ている父に「お父さん! お姉ちゃんが変!」と叫びました。
 父が慌てて飛び起きてリビングに向かうと、姉の前に身長180くらいはある長い黒髪の女が立っていて姉に手を差し伸べていたのです。
 父は姉をすごい勢いで引きずり、黒髪の女に「帰れ! うちの娘に手を出すな!」と声を荒げて言いました。
 すると女はスっと消えていき、父はテレビとビデオデッキのコンセントを抜いて姉を抱えて布団へ戻りました。
 姉を布団に寝かせたあと父は「疲れちゃったな。母さんに内緒でカップ麺でも食うか?」と先程までのことが嘘のようにニヤニヤして話してきました。
 その後、父とひとつのカップ麺を交互に一口づつ食べて、僕達は眠りにつきました。

 後日、姉に遠回しに昨晩のことについて聞いてみたけど、姉は何も覚えていないらしい。
 父はあのビデオテープのことをビデオ店に問いただしたが、店員に「うちの商品じゃないですし、そもそもお客様に袋をお渡しした時、先になにか入ってたように感じなかった。確かにビデオテープは5本のみ入ってましたよ」と言われたそうだ。
 あれから15年、僕は26歳になり、高校時代から付き合っていた彼女とめでたく結婚。
 2歳の子供をもつ父親になった。夏には2人目が産まれる予定。
 姉も30歳を目前にして結婚。まぁできちゃった婚なんですけどね。

 ここまでの人生で大きな後悔はただ一つ。
 それは父に孫の顔を見せることが出来なかったこと。
 あの女の1件のあと、父は交通事故で大型トラックと衝突し帰らぬ人に……。
 トラック運転手によると飛び出してきた黒髪の女を避けて、事故に至ったとか。
 僕はあの女の顔を忘れてはいない。
 いや、忘れていいはずがない。だって父の命を奪ったのはあの女だから。

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