幽霊のような老婆

幽霊をこの目で見たことはないのですが、
幽霊より幽霊らしい人を見た体験を書いてみたいと思います。

マンションに住んでいるのですが、そのマンションや近くにどうも認知症の人が住んでいるらしく、たまにそんな人と出くわすということが何度かありました。
母も経験があるらしく、僕も声を掛けられたりするのですが、それはまた別の話。

数年前の話になるのですが、当時僕は建築関係の仕事をしており、毎朝5時に家を出るという生活を送っていました。
ある冬の日でしたが、その時期の5時はまだ空は真っ黒で、マンション前の大きな道路でさえ、殆ど車は通らない時間帯です。
そんな中、いつもの様に自転車に乗り、さあ行くぞとマンション前の道路に出て、その端に白線で引かれた自転車が通るレーンを走り出し始めました

マンションを出ると歩行者用の道があり、隣接する形で自転車が通る車道のレーンがあるのですが、マンションを出て10メートルほど走ると、あるモノが目に飛び込んで来ました。
自転車が通るレーンとは5Mも離れていないのですが、
歩道に誰かが歩いているのが見えたのです。
それを見た瞬間、全身に鳥肌が立ち、体は硬直、目は釘付け、
そして、その場からすぐ離れたくなりました。

そこで目にしたのは、全身が白い服、ボサボサの白髪、ヘッドバンキングを遅くしたように頭をカックンカックン上下させながら歩く老婆の姿。

幽霊…!と頭に浮かびましたがすぐさま思い直し
「いや、あれは痴呆の婆さんか……?」
と思い込もうとしました。

細かい服装や何か呟いていたか、などはショッキング過ぎて正直覚えていません。
その姿はとても異様で、幽霊だと言われたら信じてしまうような雰囲気というか様子というか、心霊話からそのまま抜け出てきたかのような、実際に幽霊ってこんな感じというイメージそのままな見た目と動きでした。

いい年した大人ですが、僕はその時はもう怖くて怖くて堪りませんでしたよ。
頭では恐らく、あれは幽霊などではなく、どこからか抜け出してきて深夜徘徊しているお婆さんなのだろう……と納得しようとはしているのですが、もう動きからして尋常じゃないくらい恐ろしい。

健常者がする動きではない、見た目と相まって幽霊がしてそうな動作で歩いてるわけです。
怖い、離れたい。
でもその人から目を話せないまま、時間にすれば10秒もあったか怪しい短い時間だったとは思います
自転車であっという間に通り過ぎ、どんどん離れていく老婆を視界に収めながらも平常心を取り戻そうとしましたが、しばらく頭の中は老婆のことでいっぱいで、鳥肌や全身の緊張はしばらく収まりませんでした。

認知症の方を何人か見かけているので、幽霊などではなく、
その内の一人であろうと推測していますが……。
人通りもない真っ暗な時間帯の中、街頭に照らされて、異様な姿と動きで歩く老婆は悪い意味でとても幻想的で、よく見知ったその道は現実離れした非日常的な光景に見えたのです
人間には出来ない動きや、体が透明だったりしなくて本当によかったと思います。
もしあの場面をみなさんが見たら、幽霊だよと言われれば殆どの人が信じてしまうのではないか……。
僕がみたのはそういう、あまりにも現実離れした光景だったのですから……。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる