すっとん便所

保育園に通っていた頃の話。

今から30年くらい前の話になるので、今の若い方にはちょっとピンとこない話かもしれない。
正式名称は分からないが、すっとん便所、ぼっとん便所と呼んでいた和式トイレがあった。
要は掘られた穴の中に大便、小便を垂れ流す仕組みの原始的なトイレのことで、ストンと落ちるからすっとん便所であり、落ちた時にボトンと鳴るからぼっとん便所である。
下水道が通った、今のトイレとは比べ物にならないくらい匂いが酷く、しかも中がうっすらと見える。
スマホを落としてしまったら水没を心配する程度の騒ぎではない。
揶揄するなら地獄の入り口。 それがすっとん便所なのである。

話は保育園時代にさかのぼる。
当時、5歳だったので年中さんということになるのだろうか。
お婆ちゃん子だった私は、ミニ機織り機で編み物をし、祖母へのささやかな手土産を制作していた時のこと。
同じ教室の女の子がトイレに向かう。
それからしばらくし女の子が教室に戻ってくる。
なぜか大泣きをしながら教室に入る女の子。
「どうしたの?○○ちゃん」 先生が駆け寄り話を聞く。
泣きじゃくり言葉にならない中、一生懸命、話をする女の子にそれを一生懸命聞く先生。
教室は静まり返り、私も編み物の手を止め話を聞く。

「なんか…ヒック…おじさんがぁ…ヒッ…見ててぇ」
えっ?となんとか聞き取れた言葉に青ざめる先生。すぐさまトイレを確認しに向かう。
後を追いかけクラスの半数近くが続く。
「キャッ」 と悲鳴をあげる先生。
後ろを振り返らず、大便器から目を離さないようにしながら児童を教室に戻した。

のちに母から聞いた話によると、その後警察が来て、大変な騒ぎになったそうだ。
浮浪者が夜中に入り込み、なぜかは分からないが、職員用のトイレの大便器から穴の中に侵入。
というよりは落ちてしまい抜け出せなくなってしまったそうだ。
知っている世代の人なら分かると思うが、外の光でうっすらと見えるあの穴の中と、あの悪臭。
あの穴の中に人がいて、自分と目が合ってしまうことを考えたら…

その事件から数カ月前だったと思うが、当時愛読していたコミックボ○ボ○かコ○コ○コミックのどちらかに載っていた怖い話の漫画に、すっとん便所の中に化物が住んでいて引きずり込まれるという話があったのを覚えていたので、それからというもの絶対に保育園のトイレは利用しなかった。

実際に見た、女の子や先生は本当にトラウマレベルの恐怖だったんだろうな…

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