これは、俺が幼稚園の年長児だった頃の話。
ある日、俺と母ちゃん、弟、
確か、2階に上がる階段のゲートを直すための材料を買ったり、
俺はチャイルドシートに乗った弟をみるために、
今思うと、
母がエンジンをかけようとしたときだ。
何度もキーを回したが、かからない。
「お父さんを呼んでくる」
「ねぇ、ゆうじ(俺の仮名)。たくと(弟の仮名)
従兄弟の姉ちゃんは、弟と後部座席で遊んでいたのを覚えてる。
幼かった俺には、
しばらくすると父がやってきて車の様子を見始めた。
「特におかしいところはないけどな……。もう一回かけてみろよ」
「さっきから何度もやってんだけど、
父と母は車の様子を見ながら話をしていた。
どうやら機械的なトラブルでは無いようだった。
ならどうして? その場にいたみんながそう思っていた。
結局、車の業者を呼ぼうと父が電話をかけ始め、
すると、キュルキュルキュルキュル! っと、何事もなかったかのようにエンジンがかかった。
「なんだよかかるじゃねぇか」
「さっきまでは全然だったんだよ」
軽く言い合いをしたあとで、
一応父からは、
ホームセンターまでの道にはふみきりがある。
当時幼かった俺は、
しかし数日間ふみきりを通ることもなかったため、
遮断器が下がってくる。
(きた!) 俺は心の中で喜んだ。
だが顔にはすっかり出ていたようで、
カンカンカンカン ふみきりの音が響く。
しばらくすると、待ちに待った電車が通過した。
電車が通過する大きな音が、車内には確かに響いていた。
俺は思わず口に出した。
「うわぁ、久しぶりに電車みたぁ!」
ところが、
「なに言ってんの? まだ電車来てないでしょ?」
「え?」
いや、確かに電車は通っていた。
現に目の前で電車は通っている。轟音を響かせ、
(なんで? みんなには見えてないの?)
そう思った瞬間だ。
電車の中に一人だけ、
他の人は下を向いたり、それこそ向かい合って座っているので、
だが、一人だけ 確かにこちらを睨んで、窓に張り付いている女がいた。
電車が通過するほんの一瞬ではあったが、あれは忘れられない。
青白い顔、長い髪は振り乱したようにボサボサ。
電車が通り過ぎ、ほんの数秒後にもう一本電車が通過した。
「ほら、今来たじゃん! 良かったな」
従兄弟はそう言っていたが、
それから数年後。
あの電車が関係しているかは分からないが、
両親の離婚、従兄弟の家族の離婚、母の実家の会社の倒産、
まだまだある。 父はストーカーとなり、俺達をつきまとうようになった。
小学校四年生頃から、
今は落ち着いているが、最近また不幸が起こり始めた。
俺が始めた社会人サークルが、あらぬ不祥事をでっち上げられ、
今でも時々思うことがある。
あの女は、今でも俺たちをあの青白い顔で、髪を振り乱しながら、
あれから俺は、
もし開けてしまったら、あの女があの顔で俺を見つめてきそうで。
カンカンカンカン
あの音がなっている間は、
1つ思うのは、
どうしてエンジンがかからなかったのかは分からないが、
誰かが止めてくれたのに、
明日もまた、ふみきりを通るルートで出勤しなければいけない……