顔の違う家族

 つい最近、授業中に聞いた話です。

 僕は動物関係の専門学校へ通っているのですが、木曜日の時間割に「イヌ学」という科目があって、その担当のS先生が僕たちに「不思議な体験」として話し始めました。
 先生は学校の教師としての仕事の他に、本業としてイヌのインストラクターもしているのですが、仕事の都合で海外にも行くことが多いそうです。
 先生自身はもう何年も続けているせいか、イヌの気持ちが分かるというか伝えたいことが分かるらしく、「ワンちゃんの行動一つでその人の隠していることが分かるようになっちゃったんだよね〜。最近だと浮気してるって人が何人かいたよ」と話していました。

 そして、ある日アメリカのとある地域へ仕事をしに行った時のこと。
 依頼をしてきたのは町外れにある平屋に住んでいる家族で、「イヌが父である私と長男と長女にしか懐かない。妻がすごく寂しそうなのでぜひお願いしたい」
という内容でした。

 そういうことは良くあることと思った先生は、早速そこの家の奥様とワン ちゃんを連れて散歩に出かけたそうです。
 難なく依頼を達成した先生はしばらくその家にいることにしたそうです。
 そこで先生は何か不思議な感覚がしたそうです。
「なんだろう、この違和感…」
 ふと先生が顔を上げると家族全員がその場にいました。

 そこはリビングで長男は椅子に座ってコーヒーを飲んでおり、長女は携帯で誰かとやり取り、旦那様はテレビを見て、奥様はキッチンで夕飯の支度をしていました。
 そこで先生はやっと気付いたそうです。
「全員、顔が違う…!?」
 先程から感じていた違和感、それは家族全員の顔が誰一人として似ていないことでした。
 一人で驚いている先生に旦那様が話しかけました。
「どうされました?」
 その言葉に先生は少々ビビりながらも「いえ、なんでもないです。では、次の仕事がありますので、こ、これで失礼します」
 とお代を貰って帰りました。
 話し終えた後に「でもね、先生は思うんだよ。あの家はさほど裕福でもないと聞いたし、養子を迎えるほどの余裕もないと旦那さんが言っていたんだ。だから、あれは家族のようなコミュニティを作った団体だったんじゃないかってね」

 先生の話に盛り上がる教室。
 ですがぼくが驚いたのは先生が最後に発した言葉でした。

「あの家でワンちゃんだけが妙に浮き上がって見えたんだ……あれは不思議だったなぁ……」

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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