いつも聞いている機械から流れる音声。
それは決まったフレーズを繰り返し、ほとんどの人が何の意識もしていないだろう。 私もそうであった。
私の家の風呂はヒートポンプ式電気給湯機だ。
風呂にお湯を入れる時は【ふろ自動】というボタンを押す。
「お湯はりを開始します。お風呂の栓はしましたか?」
音声が流れ、お湯は決まった水位まで入る。
その後は自動運転が続き、温度が下がれば保温、水位が下がれば足し湯が行われる。 自動運転を止めるにはやはり【ふろ自動】のボタンを押す。
「風呂自動運転を中止します」
夜更かしをしがちな私は深夜に風呂に入る事が多かった。
風呂に浸かると同時に【ふろ自動】のボタンを押す。
「風呂自動運転を中止します」
いつもの音声が流れるはずだった。
「風呂自動ザザーザ ザー ます」
音声が乱れた。
あれ、調子が悪い?
まぁ、機械だからそういう事もあるだろう。
しかし翌日は明らかにおかしかった。
「風呂では全てが中止します」
音声がいつもと違うのだ。
気のせいか?聞き間違いか?
こんな深夜だ。私は疲れていたのかもしれない。
でも気のせいではなかった。
あれから毎晩、風呂の中で聞く音声は以前と違っていた。
「風呂では全てが中止します」
「風呂では全てが中止します」
「風呂にはあなたと私がいます」
それ以上は怖くて聞けなかった。
だから私はあれからずっとシャワーを使い【ふろ自動】のボタンを押せずにいる。 機械から流れる音声が、次もいつもと同じとは限らない……。