龍を見たおはなし3 「妙な形の龍あらわる」

話を先に進める前に前回の話のなかで「板橋のゴッドハンド」の話題があるが、 ネットで検索して引っかかるのとは違う人物である。念のため。
かの先生は、チャリで巣鴨近辺の老人宅へまわり施術されている庶民派だ。

2012年9月8日 土曜日 早朝、早稲田へ戻る彼女を見送り、それから少しだけ寝て会社へ向かった。
火曜日から金曜日までぶっ倒れていたので久々の出社だ。
まず、皆に心配かけたことを詫び、続けて結婚の報告をした。
「えっ?けっ、結婚?お、おめでとうございます。で、どなたと?」
「ん?最近知り合った、皆が知らないひと」 と、ことのいきさつを説明するのは面倒なので、そんな回答でお茶を濁す。
僕は秘密結社「バツイチ・クラブ」のメンバーでもあったので、 常日頃から「結婚なんてもうコリゴリ。あんなもなぁ2度とゴメンよ」 と公言していたのだから、突然の心変わりで皆びっくりしたのだろう。
そんな舌の根の乾かぬうちの「結婚宣言」である。
この日も病み上がりだからと自分に言い聞かせ、仕事を早めに切り上げ19時過ぎには自宅へ戻った。

さて、タバコを吸おうとベランダへ出る。 むむむ。目の前に妙な雲がある。
またしても高度が低くとっても不自然だ。
雲はモロに龍の体であり、遥か世田谷方向の地平線からウチのベランダの前まで伸び、その先っぽは目の前で切れている。
手も足もない棒状に伸びた胴体は、地平線まで続いているので尾っぽも見えない。
例えれば、完璧なモーニンググローリー(ロール状の巨大な雲)に、ウロコと蛇腹があるというイメージがわかりやすいかもしれない。
モーニンググローリーは数百キロの長さのものもあるので、規模としては同じぐらいに巨大なものだ。
まだ夕焼けの光が残っているのだろうか?その体色は白なのか金色なのかは判別できないが、なにしろ黄金色の蛇腹が美しく神々しい。
「こ、今夜も来るのか?カモーン、出てこいやー!」
この前は雲がいきなり龍へ変身したり、雲を突き破って出てきたりと、人を超ビビらせる登場の仕方をしたが、今夜は「はーい、これから現れますよー」的な前フリみたいな感じなので、心の準備が出来ていた。
今度は何が起こるかと粘りに粘って、かれこれ45分ぐらい見つめていたが、なーんにも起こらない。全く変化なし。
「なーんだコレ、ただの雲か?ケムトレイルか?」 ちょっと期待して、ずっとベランダに居座り続けていた自分が何だか馬鹿らしくなった。
「な、ワケないか」 さっと部屋へ戻って、風呂に入り夕食を済ませたあと軽くニュースを観ていた。
さーてタバコでも吸うべぇとベランダへ出る。
何と、あの雲がまだそこにある。時刻はもう22時30分である。
地平線まで続く長く巨大な雲。
しかもこんな低空で長時間その形を崩さず、移動もしないというのは、いくらなんでも不自然であった。

と、ベランダの前でバッツリ切れていた先っぽが、モフモフモフと霧がかかったようになり、その霧の中からシュルリ、シュルリと何匹もの龍が出てきた。
それぞれの龍には前足があり、いずれも3本の指を持っていた。
龍の母船? 龍が生まれてる? 一本の胴体の先っちょに何匹もの龍がワッシャラ、ワッシャラと絡み合ったり出たり引っ込んだりしているが、母体から離れ単独になるといったことはなく、下半身は母体の中なので後ろ足は見えない。
こうなると、僕の想像力の「龍」というイメージを遥かに逸脱している。
なんじゃこの変な龍は? ほら、よくお坊さんが庭の落ち葉をかき集めるときに使う「熊手」のような全体像だ。
人間の部位で例えると、母体が腕で、龍が指である。
「はは〜ん、俺と彼女が結ばれたんで、たくさんの龍たちが母船に乗ってお祝いに来てくれたのだな」 と勝手に良い方に解釈した。
しばーらく龍たちの乱舞を観ていたが、1時間も観ているとさすがに飽きる。 とっとと、部屋に戻り寝てしまった。
あとになって考えると飽きるほどの余裕があるなら、ダメモトで写真でも撮っときゃ良かったと思うが、なぜかそこには考えが及ばない。
この話はあとで関係してくるので、ここに書く。

こう見えて、海外では僕のことを写真家だと思っている人が大勢いる。
20年前、一瞬のひらめきで(今考えると降りて来ていた)100%自費出版のバイク写真集を出した事があるのだが、その本は噂が噂を呼び約半年のあいだに南アフリカから欧州東欧ユーラシア、北米南米、オーストラリア、アジアと、予想より速く口コミだけで売れてしまったのである。
出版社も自分、販売も自分。自分レーベルの自費出版本。
この本は海外でいつしか「セレブだけが持っているバイブル」と呼ばれていた。 米EasyRiders誌伝説の編集長キース・ボールや欧州各国のジャーナリスト達が詳細にレポートし、ブラッド・ピットは常に爆買いして、ハリウッドのセレブ達に配ってくれていた。
ラルフローレン本社、NIKE本社、エルメス本社、クロムハーツなどの名だたるブランドのデザイン室や、建築家、ハリウッド映画関係、ミュージシャンなど各国のクリエーター達が所蔵している。
なので、彼らにとっての僕は写真家なのである。
今でも仕事で使うことがあるので、一眼デジはいつも手元に置いてあるのだが、 どういう訳か神秘体験中の不思議写真などは一枚たりとも撮っていない。不思議だ。
「人間1人の発信する思いつきが、宣伝活動無しに世界へ広がり、世界の風潮に少しでも影響を与えることが可能か?」
という壮大な実験をすべて1人で行った。
NIKE本社からは「来年のNIKEのテーマはこの本にした」、ラルフ本社から「表参道店の一発目のクリスマス・ショーウインドウを手伝って欲しい」などと、ジャンルを超え少しだけでも影響を与えたのだ。
この実験は当初の計画以上に成功し、僕は「1人の人間は世界を変えることのできるパワーを持っている」という事実を体験し、決して理想論ではないことを実体験で理解したのである。
キリストも仏陀もガンジーもたった1人の人間であって、皆が「平等」にそのパワーを持っているという事実。
「1人では何も出来ないよ」という悪魔のささやきに騙されてはいけない。
ガンジーとあなたの違いは「やる」か「やらないか」だけであって、「あなたが出来ることの何をやるか」ということだ。
大きなことをやるというのではなく、もちろん子供を育てるというのも立派な役目だ。
まずは自分に接する人たちへ無条件で愛を与え続ける。
もう一度言う。 誰しも「平等」に世界を変えるパワーを持っている。

さて、次の日。 2012年9月9日 日曜日
僕は仕事中「婚前旅行にでも行きてぇなぁ」と考えていた。
群馬の草津温泉はリーマン時代の社員旅行で行ったことはあるが、プライベートとそれは別だ。
僕は旅をするとき、1941年式ハーレーのチョッパーへテントや椅子などをくくり付け、キャンプして回る。
草津へ行っても郊外でキャンプし、温泉は町営の¥500共同浴場で済ましていた。
それはそれで楽しいが、婚前旅行なのだから上げ膳据え膳でゆっくり楽しんでもバチはあたるまい。
「あのさぁ、水曜と木曜の休みに草津温泉に行こうと思うんだけど」
「いいんじゃないですか。草津からだと多少遠いけど、白馬の方に山品という美味しい蕎麦屋もありますよ」 と長野県出身の従業員が教えてくれた。
聞けば、車で高速乗ってでも長野から食べに行っていたそうだ。

2年前、「戸隠 蕎麦の旅」キャンプ・ツーリングをしたので、さすが心得ている。
さっそくネットで「草津温泉」と「手打ち蕎麦 山品」の地図を見た。
う〜む、予定は何とか組めそうだが、走行ルートに面白みがない。
それだったら、信州信濃をグルっと回るように、中央道から長野道、関越道で東京へ戻る。
何となくそんなプランが浮かび、草津温泉は次回ということにして、東京から白馬へ向かう中央道沿いに温泉はないか探してみた。
諏訪湖に「民宿 すわ湖」という予約数ヶ月待ちという安くて人気のある宿が見つかる。 初めての諏訪湖だしホテルには泊まりたくない。
さっそく電話したところ、今キャンセルが出たので一部屋だけ空きがあるということであった。
この電話を切らずに予約しないとスグに埋まってしまうとのことなので、お願いする。
ラッキー! さて、旅行当日の9月12日 水曜日。
諏訪湖の宿に到着し、とりあえず周辺を観光しようと湖を散歩する。
何しろ諏訪湖の湖底には、かの武田信玄公が巨大な瓶(かめ)に入れられ埋葬されているという伝記がある。
「あっ、諏訪っつーと諏訪大社あんじゃね? お参りして結婚の報告をしよう」 ということで、諏訪大社へ。
「おっ、千尋池なんてぇのがあるねぇ。あっ、これ御柱(おんばしら)じゃね? ん?これ古墳だぁ、このあたりって古墳がいっぱいあるのか?」 なんて、はしゃぎながら神前で報告を済ます。
そして、諏訪大社の云われ書きなどを読んでいた。
「御祭神は. . .ふむふむ、聞いたことのない人。諏訪大明神、龍信仰。ん? りゅ、龍信仰!!」
さっそくネットで調べてみる。

● 八百万(やおよろず)の諏訪大明神は、白い龍の諏訪大権現となり出雲の神様会議に出るのだが、その巨大さゆえ下半身はまだ諏訪湖に浸かったままだという。なので信濃には神無月がない。
● 武田信玄公の「2本角の怪獣に白い毛が生えてる」兜。あれも諏訪大権現の姿らしい。
● 鎌倉時代の2度に渡る蒙古襲来のおり、そのつど諏訪湖より白龍が舞い上がり「神風」を吹かせ蒙古軍を殲滅したという。

11月の台風発生は、未だ歴史や気象研究の謎とされている。
そのため日本を守る軍神としても信仰されている。
間違いない、日曜月曜とベランダ前で怒っていた巨大な白龍は、ここの諏訪大権現に違いない。
ここへと引っぱられてきたのは偶然でないと、僕の魂が確信していた。
ただ諏訪では何事も起きず、翌日「山品」で蕎麦を堪能し東京への帰路につくことにする。
諏訪大権現の怒りは静まったのだろうか? 途中、戸隠方面の標識が見えたので「ついでだから戸隠でも寄ってく?」と彼女に聞いたら「いいね」ということ。
15時半ぐらいに戸隠に着いたが「戸隠奥社」もあるので、時間的にギリギリだけど奥社へもお参りして行くかということになった。
戸隠山の山頂付近にある奥社へは約2キロの参道が続き、片道1時間ぐらいかかる。
さて、次に僕らは更なる不思議ゾーンへと突入した。
奥社行きにより、僕が40年前に体験した神秘体験がバチンっとリンクする。
人間は生まれたときから、人生のシナリオというものを持っているのではなかろうか? この完璧なシナリオは、ヘタな三流小説よりドラマチックであり、人生の中にちりばめられた意図的な仕掛けが、数千年の時を経て動き始める。 様々な人たちが、まるでバトンリレーでもやるかのように、僕の前に現れ次への足がかりを伝えてくれる。
推理小説を現実世界でやっているかのような感覚。
それらには偶然や思い込みなどではなく、明らかに何者かの意思が介在していた。
二人一緒の終わりのない不思議な人生の旅路は、まだまだ続くことになるのでありましたとさ。 つづく

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる