悪夢

小学生の頃、夏の暑い夜にあまりの暑さに夜中に起きてしまいました。
汗だくになって不快な気持ちでいると、
周りがオレンジ色にぼんやりと明るい事に気が付きました。
部屋は真っ暗にして寝ているので明るいはずはない。
何で?と思って視線を動かすと、ベッド脇に女の人が立ってました。
女の人は床から数センチ浮いた状態で、壁に向かって歩く動作をしています。
赤いチェック柄のパジャマ、長い髪、見えない目元。
ビビった私はそのまま布団に潜り込んで寝てしまいました。

それからいつもではありませんが夢に女の人が出てくるようになりました。
たまに見る悪夢にこの女の人が出てきて私を追いかけてくるんです。
でも、いつも逃げ切れるのであまり気にしてませんでした。
状況が変わったのは成人して今の旦那(当時は彼氏)と話している所からだと思います。
世間話の延長で、この悪夢の話をしたんです。
それから悪い夢を見ても、その夢に出てくることはありませんでした。
何故だろう?と不思議で仕方ありませんでしたが、
怖い思いをしなくて済むのだから良かった、と安堵しました。

数カ月経ったあと、彼が
「最近悪夢を見る。四つん這いの女の人が追いかけてくる」
と相談してきました。
怖さが勝って細かくは覚えてないけど、赤い服で髪は顔が隠れるほど長く、凄いスピードで追いかけて来る、と。
幸いまだ捕まったことは無いと言っていました。

その話を彼から聞いた夜、私は寝苦しさに目を覚ましました。
あたりを見回すと部屋が霧に覆われていました。
驚いて体を動かそうとしますが金縛りにあっているのか、うまく動かず、
そのうち霧は私の寝ている体の上側に集中し、女の人が現れました。
ただ今度は白い服に変わっていました。
その人はフワァーっと上を旋回し、グッ!と私の顔に手を触れてその顔を近づけてこようとしていました。
私は全神経を集中させて、動け動け動け!と腕に力を入れました。
何とか動くようになった片腕を、パニックになっていたのか拳をその人の顔面に叩き込んでしまいました。
感触は、ドライアイスの煙に手を突っ込んだようなあのひんやりした感じ。
煙が消えるかのようにフッ、とその人は消えていきました。

彼と結婚し、一緒に寝起きするようになって気がついたんですが、旦那がかなりの頻度で悪夢を見るんです。
毎日、声を「うう、うぁぁあああ!」と声を出してうなされます。
それを私が毎回慌てて起こすのです。 しかし起きるとあらかた忘れてしまう。
「怖い女の人がいたんだけど…あとはわからない…」と寝てしまいます。
そんなことが数年続きました。
私は夜中に起きていつうなされても良いように起きているようになりました。
幸いにも旦那は深く考えるタイプではなかったので仕事にも普段の生活にも影響が無かったのが救いでしょうか。

ある日、また、金縛りにあいました。
こちらの部屋は一番小さい電球しかついておらず、隣の部屋は真っ暗。
隣の部屋の奥にフワ、と人の形が浮かび上がりました。
あの女の人だ!と直感的に思いました。
そしてその人はゆっくり私に近づいてきます。
ゆっくり近づき、布団に入れていた私の右腕を布団から出して持ち上げ、その人は私の手の甲に齧り付きました。
その感覚がリアルで、本当にリアルで気持ち悪くなったのを覚えています。
唾液とか、生暖かい吐息とか、とにかくリアルな感覚でした。
そして酷く不愉快な気持ちになりました。
集中して腕をグンっと振り、裏拳を叩き込む感じでまた殴ってしまいました。
今回も前と同じように煙を散らすように消えていきました。
安堵した私はそのまま眠ってしまいました。
そして夢を見ました。
も○のけ姫にでてくる綺麗な森をイメージしたような、
とても美しい空間でした。
森の中、澄んだ池を中心に森の入り口から奥に繋がる道があり、
私は何故か狐のぬいぐるみを抱いて池を見ていました。
木漏れ日が辺りを更に綺麗に見せていました。
池のすぐ脇には小さなお社があり、狛犬みたいなものもあったと思います。
しばらくボーッとその風景を見ていました。
ふと、急な恐怖が私を襲いました。
森の入り口からなにか来る。 そんな感覚でした。
私はお社に身を潜めました。
そこしか隠れるところがありませんでした。
森の中なのに、道から外れるという選択肢は浮かびませんでした。
体が恐怖でガクガクと震えて、狐のぬいぐるみを抱きしめて、今までにこんな恐怖は感じた事はないくらいに怯えていました。
自分でも何がなんだかわからず、ただ、「必ず見つかってはならない」ことは理解してました。

森の入り口から人が来ました。 背が高く中性的で、多分男性だと思います。
そして足にも届くほどの髪の毛はとても艷やか。
顔は薄い布で隠れており、服装は平安時代のような出で立ちです。
見た目は綺麗なのにとても怖かった。
その人はあの女の人を引きずって歩いていたからです。
女の人は地面を必死に掴みますが、土と枯れ草しかなくずっと抵抗してました。
でもその抵抗すら全く気にならない様子で、
女の人の片足を掴んで歩いていきます。
とうとう、森の奥へと消えていきました。
女の人は何か喚いていたと思いますが、うまく聞き取れませんでした。

そこで、私は目が覚めました。
驚いた事に、その日から旦那がうなされる事は無くなりました。
あの男性は、あの場所は何だったのでしょうか。

あの場所はとても落ち着く場所でした。
あんな思いをしたのにもう一度行きたい、と思っている自分がいます。

朗読: りっきぃの夜話

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