伝わる感情

私が23歳くらいの頃の話です。
私はよく金縛りにあう子どもでした。
そして金縛りにあう時は必ず特殊な耳鳴りがするのです。
あの夜も特殊な耳鳴りから不気味な体験が始まりました。

その夜、1日の疲れを癒そうとお布団に潜り込みはしたものの、なかなか寝付けずに寝返りを繰り返していました。
時刻は1時を回っていたと思います。
家族も皆寝てしまったようで時計の秒針がカチカチと動く音だけが聞こえていました。

何度目かの寝返りをうった直後、キーンと耳鳴りがしたかと思ったら、こめかみがズキンズキンと痛みだし頭の中でウァンウァンとまるでバイクを吹かすような爆音が鳴り響いてきました。

(ああ、しまった金縛りだ)

そう思ったとたんに体が動かなくなりました。
すると誰かが廊下を歩きこちらに向かってきました。
それは部屋に入るガラス障子を開ける事なくスルリと部屋に入ってきました。

人ではないことは明らかです。
そしてそれは布団で寝ている私の周りゆっくりと歩き始めました。
瞼を開けることも、眼球を動かすことも出来ました。
でも、過去に嫌な思いをしたことがあるので絶対に瞼は開けないと決めていた私はそれの気配だけをずっと追っていました。

私はいつものように (私は貴方の力になる事も成仏させる事も出来ません。申し訳ないけれどお帰り下さい) と念じながら、金縛りを解くべく指先に力を込めていました。
指が1本でも動かせれば金縛りは解けます。
力業なのですごく疲れるのですが、立ち去る様子が感じられないので仕方がありません。かなりの抵抗の後、金縛りは解けました。

今まで横になっていたとは思えないほど心臓がバクバクしていました。
しばらくして心臓の音も治まり、やっと眠れると思ったとたん、またあの耳鳴りが始まり、起き上がろうとしましたが間に合わず金縛りになりました。

(同じ奴だ……)

直観でそう思いました。
それはまたスルリと部屋に入り、私の周りを回り始めます。
説得に応じてくれないというよりは私は眼中にない感じなのです。
何がしたいのかわからない一番厄介なタイプだと思いました。

私は祖母と同じ部屋で寝ているので、こういった場合おばあちゃんが私の異変に気付いて起こしてくれるのですが、この日は家を建てたので遊びに来て欲しいという伯母の家に泊まりに行っていたのです。
おばあちゃんのいない部屋で1人金縛りと戦うしかなかった私は、必死で指先に力を入れ”動けーっ”と念じていました。
頑張った甲斐があり、しばらくして金縛りが解けました。

飛び起きて時計を確認すると夜中の2時を過ぎていました。
「マジでしつこいな!」
イライラしながら独り言を言い、枕元に置いていたペットボトルのお茶を一口飲んでまたお布団に潜り込みました。

平日でしたので6時に起きなければ仕事に間に合いません。
少しでも睡眠をとろうと目をつむるとすぐに耳鳴りと金縛りがやって来ました。
それは布団の周りをグルグルと回るだけなので、いっそこのまま寝てやろうかと思いましたが、さっきとは少し様子が違う事に気が付きました。

焦りとか苛立ちみたいな感情が伝わってくるのです。
結局、その夜金縛りあった回数は5回。
回を重ねるごとにそれから伝わる感情は焦り、苛立ち、怒り、執着と変化していきました。
それに耐えられなくなった私は5回目の金縛りを打ち破った4時過ぎ、すぐに枕を抱えて母の部屋へ行こうとガラス障子を開けました。

廊下ではいつも母と一緒に寝ている飼い猫がちょこんと座って私を見上げていました。
「居たんなら助けろよー」
私は猫と一緒に母の部屋へ行き、事情を話して朝まで母と一緒に寝てもらいました。その後は金縛りあう事なく朝まで眠る事ができました。
幾度となく金縛りにはあいましたが、相手の感情が伝わる様なことはなかったので今でもすごく記憶に残っています。

かなりの昔の体験な上に、文章も拙くてわかりずらいものになってしまい申し訳ありません。 ですが、この話には後日談があります。
そちらは霊的現象は一切ないお話ですので、ここで一度区切らせていただきます。

伝わる感情 〜後日談〜
http://hhs.parasite.jp/hhslibrary/?p=2063

朗読: 怪談朗読と午前二時


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