屋上の彼女

今年で22歳になる俺が高校時代に体験した話。

俺は全校生徒900人ほどのまぁまぁ大きい高校で
男子バレーボール部に所属していました。

この高校には変な噂があり、その噂というのは、存在しない屋上です。
この学校、外見では屋上があるように見えるんですが、屋上に繋がる階段は存在しないんです。

この話を友達から聞いた時俺は
「どうせ階段じゃなくてハシゴがありました〜なんてオチじゃないの?」
と言っていましたが、どうやら階段が存在するようです。

高校2年の夏、俺たちの学年は職場体験があり、俺ともう1人のAは某携帯ショップに行きました。

朝礼の時に自己紹介をし、解散して担当の飯島さんから日程の説明を受けました。
すると飯島さんが 「たしか○○高校だったよね?屋上の話ってやっぱり有名なの??」と聞かれました。

どうやら飯島さんは俺たちと同じ高校出身で当時25歳の飯島さんも知っているということはこの噂はだいぶ古いものなんだと気づいた。
「そういう噂はありますね。それってほんとなんですかね」とAが言った。
「いやぁ、俺がいた時はさぁ屋上に続いてる階段あったんだよね。いま無いらしいじゃん?」

「確かに無いです。飯島さんの時に屋上でなんかあったんですか?」
「それがね、無いんだよ。もしかして期待してた?いや、昔からその話はあったんだけど何があるかは謎なんだよね」
飯島さんとは職場体験期間中この話でずっと盛り上がっていた。

職場体験最終日の帰るとき
「なんか進展あったら教えて」
と言って電話番号を教えて貰った。
Aと「進展なんてあるかな」なんて言って笑っていた。

次の日からまたいつもの友達と馬鹿なことをする日常に戻った。
部活中に俺は教室に課題を忘れたことを思い出した。
同じクラスの部長に「課題って明日までだよね??」と聞くと
「うん。そうだけど、お前もしかして教室に置いてきた?」
「ご名答・・・この時間教室空いてる? 見回りの先生に不審者とかと勘違いされて取り押さえられたりしないかな」
と笑いながら話していた。

時計の針は8:30を指していた。
夏とはいえどさすがに外はもう暗い。
「しょうがねぇ、行くしかないか…」
と言い部活が終わったあと1人で階段をのぼり1番上の階の教室に行きました。

教室の鍵はまだ掛かっていなかった。
「はぁ……セーフ」
独り言を言いながら教室に入り、数学のテキストを手に取り黒板に書いてある課題の範囲のページに付箋を貼って教室を出た。

そのタイミングで見回りの先生が教室の前まで来ていた。
よく見ると担任だったので
「あっぶねぇ・・・先生来るのあと5分早かったら課題提出できなくなるところでしたよぉ〜」
「あ〜しまったな。5組(わたしの教室)から先に鍵締めていくべきだったなぁ」
「なんてこと言うんですか」
なんて話していた。

先生が「気をつけて帰れよ〜」という言葉を聞き、俺はトイレで用を足してから階段に向かった。

階段の前に来ると見慣れない光景があった。
ここは最上階のはずなのにもう1つ上に繋がる階段がありました。
俺は興味本位で階段を登っていきました。
登って行った先には黒い大きな扉があり、その扉には『立ち入り禁止』とデカデカと書かれた看板が貼ってあった。

扉の前に立って、ドアノブに手を掛けようとした瞬間に「開かないよ」と後ろから声が聞こえた。
驚いてバッと振り向くとショートカットの女の子だった。
華奢な見た目で清潔感のある感じの子だった。
校内でかわいい女の子を見つけると友達と報告し合って、その女の子を教室まで見に行っていたが、こんな子は見たことがなかった。
見落としていただけなのかもしれないとその時のわたしは思っていました。

女の子がスクールバックから鍵を取り出して、「ここいつも鍵かけてるから」と言いながら手慣れた様子で解錠していた。
でも鍵がほかの鍵と違った。
パッと思いついた説明で申し訳ないけど、ジョジョの奇妙な冒険の黄金の風で登場人物達が入っていた亀の背中に付いてる鍵みたいなやつだった。

初めて屋上を見た。
ベンチが二脚あって、思いのほか広かった。
彼女がベンチに腰掛けて、ずっと空を眺めていた。
俺はその姿をただ見ていた。
すると彼女は俺を見て 「なんで突っ立ってんの?座ったら?」と言って彼女の隣を指さした。俺は 「え、あぁ。うん。」と言って座った。

なんか落ち着かなかった。
となりで空を見ている彼女がほんとに可愛かった。
無言の状態がしばらく続き、なんか話さないと、と思い
「あ、あの・・・何年生?」
と聞くが彼女の耳には入ってこないのか黙ったままだった。

「この学校・・・屋上あったんですね。ずっと噂だと思ってたんで………」
俺がそう言うと彼女が「別に敬語じゃなくていいよ」と一言返した。

俺の頭の中が彼女に対する質問で埋め尽くされた。
何年生なのか、何組なのか、部活は何しているのか、
なんで屋上の鍵を持っていたのか、何をするために来たのか。

色々考えていると 「君…部活は?」と聞かれた。
「だ、男子バレー部」
「ふぅーん・・・強いの?」
「いや、中の上くらい」
「へぇ。やっぱり○○(4駅先の高校)には勝てないかぁ・・・」
この時俺は ○○高校は10年ほど前までバレーの強豪だったけど、今は問題を起こして無くなったという話を思い出した。

「○○ってバレー部無くなったような気がするんだけど・・・」
と言うと
「え?だってこの前の大会で全国決めてたじゃん」
と返されて、返答に迷った。

ここは相手に合わせようと思い
「あ、あぁ。そ、そうだったね。他のところと勘違いしてた」
と言うと 「あっそ」の一言で会話が終わった。

腕時計を見ると9:30 そろそろ帰らないとと思い
「俺、帰るね」というと女の子は
「また来なよ。待ってるから。」と言った。

俺はドアを開けて女の子の方を見て軽く手を振って帰った。
チャリを漕ぎながら1人で変な妄想をしていた。
まぁ歳頃だったのでしょうがない。

後日、俺は知っている限りの後輩に昨日の女の子のことを聞いてみたが、知らないと言われました。
部活が終わったあと部員に「おーい、ファミレス行こ〜」と誘われましたが 「ごめん、用事あって行けないわ」と言ってその場を去り、階段を上がって行った。

時刻は8:05。
ちょっと早かったかなと思って階段を登り終えると、屋上に繋がる階段の一番下に彼女が腰掛けていた。
目が会った瞬間 二人同時に「あっ」と言った。

彼女は続けて 「ほんとに来たんだ」と言って立ち上がり階段を登った。
それについて行き、昨日と同じベンチに座って、俺も彼女も空を眺めた。

「変わんないなぁ」
彼女がぼそっと言った。

俺もさすがに飽きてパッと携帯を開くと時間は9:30。
アレ?と思った。
ここに来てまだ10分も経っていないはずなのに、時計ではもう50分も経過したことになっている。
さすがにおかしいと思い、彼女に
「携帯壊れちゃったかも。時間バグっちゃった」と言うと
「そう・・・当たり前かもね」と言った。

その一言で急に怖くなった。
「ねぇ。変なこと聞くかもしれないけど、君って・・・」
 そう言いかけた時
「死んでるかもね」と彼女は言った。

俺はバッと立ち上がり、彼女を見ていた。
彼女は「はぁ」とため息をついて
「もう・・・飽きたなぁ」と言って涙を流していた。

俺はそれを見て心が痛くなった。
俺は「怖くないよ」と一言言い、またベンチに腰掛けた彼女は手で涙を拭って、スクールバックからノートを取り出して1ページ破った。

そのノートはまるで破るために使っているのかと思うくらいに薄っぺらかった。
ノートを下に敷き、破った紙に何か書いて4つ折りにし、俺に差し出した。

「ここでは見ないでね。あと明日からは部活終わったらすぐ帰りな」
と半泣きの顔で言ってきた。
俺は紙を受け取り、ワイシャツの胸ポケットに入れて何も言えないまま、また空を眺めた。
雲の位置も星の位置も昨日とさっぱり変わらない景色だった。

「時間大丈夫なの?」と聞かれたが
「ここにいても時間は変わらないでしょ。なら少しでも一緒にいてあげたい」
と言った。

今思えばとんでもなく臭いセリフを言ったなぁと思った。
しかもダサいことに俺はそのままベンチで眠っていた。
起きるととなりに彼女は居なかった。

携帯で時間を見ようとしたが、開く直前に「意味無いか…」と呟き、扉の開けた。閉まる直前にベンチを見ると彼女が涙目で俺に手を振っていた。
俺は手を振り返し、扉が閉まったあと涙がこぼれた。

帰宅後、彼女から貰った紙を見ると震えた字で
「生きているうちに君と会いたかった」と一言だけ書いてあった。

次の日、試しにと思い部活の後、屋上に繋がる階段のところまで行ったがいつも通りの壁になっていて、階段は無かった。

しばらく経ったある日、この学校に20年程前に勤めていて、1度は異動になったが2年前からまた戻ってきた体育の先生に少し話を聞いてみた。
すると先生は彼女の写真を1枚机に置いて話してくれた。

20年前、周囲から嫌がらせを受けていた彼女は屋上で自殺したそうだ。
具体的にどのように自殺したのかは教えてもらえなかったが、飛び降りとかではないらしい。
友達が出来ずに何度か相談を受けたことがあるようだった。

その後、飯島さんの何個か下の代の人が屋上でトラブルを起こして、屋上は完璧になくなったらしい。彼女はよく1人で屋上に行き、星を眺めていたそうだ。
先生が特別に10:00近くまで屋上を開けていたということも教えてくれた。

あれから5年。
俺は今でも時々彼女を思い出す。
彼女に貰った紙は今でも大事に取ってある。

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