今から7年前のことです。
僕の祖父が75歳で亡くなり、通夜と葬儀を終えて数日が経った時のことでした。
祖父が亡くなって、落ち込んでいた僕は自分の椅子に座ってボーッとしていました。
父は自分の父親を亡くしたことの悲しみを紛らわそうと、バイクいじりに没頭していました。
その様子を窓から見ていた僕でしたが、どこからともなくタバコの匂いがしてきたのです。
僕は未成年で吸えないどころか肺が弱かったのもあってタバコなんて必要ないし、父はそんな僕を気遣って外で吸うので、「誰だ…?」と警戒しました。
だんだん強くなってくる匂い。
とうとう僕の部屋中に漂うまでになりました。
そこで、気づきました。身内でタバコを吸う人間がもう一人いたことを。
「じいちゃん…?」
咄嗟に口から出ていました。
祖父は脳梗塞になろうが、ガンで入院して余命僅かと診断されても誰かがお見舞いに行く度に、「おい、タバコはどうした」と言うほどでした。
入院しても強気な姿勢は変わらず、食事よりタバコを優先していた祖父が死してなお、タバコを求めているのだと判断した僕は「墓参りの時に親父に持っていくように頼んどくよ、てかいい加減禁煙しろって」
と言いました。
するとその匂いは薄れていき、ついには完全に消えました。
祖父が生きている間は、陰ながら応援してもらっていたこともあって嬉しかったのと、タバコが好きなのは死んでも変わらないんだなということを知りました。
それ以降のお墓参りは、父が必ずタバコを持っていって線香と一緒に手向けるようになりました。
それから、多分祖父はお墓にはいません。だってたまに誰も吸ってないのにタバコの匂いがしますから。