もふもふ

昔、私が住んでいた家は、あまり害のない動物霊というか
所謂妖怪のたぐいと思われるものがいました。
今回はそのお話をします。

それは小さな毛だまのようなもので、当時読んでいた「ゲゲゲの鬼太郎」に出てくる、すねこすりのようなものだと思います。

なにもない廊下でふと足に触れる程度なので、
最初は空気の流れかなにかでそう感じるのだか、という程度に思っていました。

それもそのはず。
なにせ古い木造家屋だったので、最近建てる家とは違い、すきまだらけで、大掃除で2階の畳を上げると2階の床板の隙間や木材の穴から1階が覗けるやらでスースーな構造の家でした。

祖父が趣味で信心していた大きな神棚が2階の一角にあり、
かなり不思議な家だったかもしれません。

祖父は毎朝と夕方に欠かさず神棚と仏間でお経をあげており、
幼い頃は気が向いたら手伝ったり、一緒にお参りをしていたので自然と般若心経を覚えることもできました。

子供の頃はそれが普通の事だったのですが、今から思えば十畳以上の広間の壁面にまるで神社のような大きな神棚がある家、なんて変わってるなんてもんじゃないですね。

とはいえ、本当に何かの大きな宗教組織に入っていた訳でなく、商売人だった祖父の「趣味」で信心していたのです。
なのでかなり純粋な「気」が神様の部屋にはありました。

そんな神様の部屋のおかげなのか、悪いものは入ってはこなかったのですが、前述のようなふわふわものが住み着いていたようです。

この存在を確信したのは高校の頃で、
当時受験やらで遅くまで机に向かっている時でした。

すきま風の多い家だったので、冬場はストーブだけでは寒く、小さなくて一人用のホットカーペットを机の下にひいて寒さをしのいでいました。

机から離れると隙を見て、当時飼っていた猫がこのホットカーペットを占拠するので、足でじわじわと猫からカーペットを奪うべく陣地とり合戦をしていたりしていました。

ある夜いつものように机に向かっていると、もふっとしたものが足の上にのってきて、「あ、猫きた」と思ったのですが何か変。
軽いのです。
軽いなんてものではなく重さが全くない。

飼っていた猫はチンチラゴールデンという、所謂ロン毛の洋猫だったので、重くないのは多分しっぽの身のない毛の部分だけをのせてきたんだなと納得しました。

「おや珍しい。いつもはどいてと言わんばかりにくるのに、しっぽの先だけなんて」

思わず足をツンツンと動かすと柔らかい猫の体がありました。
暫く机に向かっていると階段をテコテコかけ上がる音がして廊下と部屋を仕切っているガラス引き戸の向こうから「にゃん」(開けて)という声が。

確かに戸は閉まっていたので猫は入ってこれないことに気がつきました。
「あれ、じゃ今足元にいるの何?錯覚?」
と足だけでまたツンツンすると確かに、いる。

なにかもふもふして軽いものが。

え、と初めて机の下を覗くと。
なにもいない。

ん?ん?

とちょっと混乱してると、再度開けてという猫の催促が廊下から聞こえる。
とりあえず猫を入れる為に扉を開けると、するりと猫が入ってきて暫くすると何もなかったように下に降りていきました。

あれ、なんか用があったんじゃないのと聞いても知らんぷり。
なんだか「ちょっと気になったから見にきた。でも、もういいや」
みたいな感じで。

なんだそりゃ、と猫の後ろ姿を見送りつつ、それにしてもさっきの、もふもふなんだろうと考えました。

たまに近所の猫が遊びにベランダから入って来ることはあったが、真冬で窓もベランダの扉も締め切ってるから入ってはこれない。

子供の頃から足首にふわふわあたりに来てたのは、あれかな。
猫のふりしてホットカーペットにくるなんて、よほど寒かったのか人なつっこいのか。

その後は私が大学にいき、家を出てしまい実家にあまり帰ることがなかったのですが、卒業後にUターンで実家に戻った時にもふもふの気配はいなくなっていました。
きっと成長した猫との縄張り争いに負けたのかもしれません。
人なつっこいくて可愛い雰囲気だったのに。 残念です。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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