私は実家暮らしの時、10代後半になっても、小さい頃からの親の教育で
『誰か来ても玄関の戸を開けるな』
という教えを律儀に守っておりました。
その日は休日で、両親は出掛けていて私一人で留守番をしていました。
私が玄関に座り込んで自分の靴を磨いていたら、
「ピンポーン」とチャイムが鳴りました。
戸の目の前にいるとはいえ、私はその時も両親の教えを守り、
じっと黙って居留守を使い、やり過ごそうと思いました。
そうするとまた「ピンポーン」とチャイムが鳴りました。
また数秒おいて、「ピンポーン」。
大体の人は2、3回チャイムを鳴らせば帰っていくかと思いますが、4回目。
「ピンポーン」と…。
私は「しつこいな、この人…」
程度にしか思っていなかったのですが、突然「ドンッ」と戸を叩かれる、いえ、殴られるような音がしました。
その後も、「ドンッドンッドンッ」と止むことはありません。
流石に恐怖を感じた私は、教えなどそういうこと関係なしに、
直感で「出てはいけない!いるのがバレてはいけない!」
と思いました。
数分たったでしょうか、それとも数秒だけだったのでしょうか。
戸を殴る音がピタッと止みました。
「諦めたのかな…?」
と安堵した瞬間に、知らない男の低い声で
「いるのは分かってるんだからな」
と聞こえ、その場から離れていくような足音がしました。
両親が帰ってきた後にその話をしましたが、
当然誰かが訪ねてくる用はありません。
あの時、戸を開けていたら私はどうなっていたのでしょうか?
今となってはもう、分かりません。