開けた人

私が小学生のときの体験。

その日、私は姉と夕方遅くまで家のすぐ隣の小学校の周りを
自転車を乗り回して遊んでいた。
遊び疲れたので5時を過ぎたあたりで、
もう帰ろうということになり家へと向かう。

空はようやく日が沈み始めたようで黄色くなりかかっていた。
その時住んでいたところは4階建ての社宅で、私の階は3階。
玄関の前まで来たところで二人とも家の鍵を忘れていたことに気づいた。
誰かが家にいることを願いインターホンを押したが、なにも反応がない。
疲れて喉もかわいていたので、早く家に入りたかったのだけど、
何度インターホンを押しても、ドアを叩いても誰も出てきてくれない。

しばらくして、いきなりカチャ…とドアノブが回りドアが少し開いた。
少ししか見えてない隙間からは手首までしか見えないが
白いセーターの袖で色白でゴツゴツした男の人の手がドアノブを掴んでいる。
お父さんか、良かったー!と思い、中に入ろうとした瞬間、その手が急にドアノブから力が抜けたように離れ、カチャン…と閉まってしまった。
少し不思議に思ったが、すぐさまドアを開け 「ただいま」と言おうとしたのだけれど、玄関に人がいない。
あれ?おかしいな…と姉と2人して状況が掴めずにいたが、
急に怖くなってきて 急いでリビングへ向かった。

リビングに入ると父がテレビの前で、相撲の試合を見ながら座っていた。
父に何でドアを閉めたのかと聞くと、そもそもテレビに集中しすぎていて、
インターホンもノックの音にも気づいていなかったそうだ。
最初は怖がっている私たちを見た父が脅かそうとしてるだけだと思っていたが、父が着ていたのは緑色のセーターだった。
あの白いセーターと2人して見間違えるはずがないので、
姉と私はもう怖くて仕方なくなった。
家族には父以外の男の人がいないので、あの手首の人はこの世のものではないと思わざるをえないが、玄関を開けてくれたので優しい幽霊なのかなと思う。

あれから10年近くたったけれど、
あの一瞬の間に見た男の人の手は今でも鮮明に覚えている。

朗読: 小麦。の朗読ちゃんねる

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