二人の子供

これは、会社の同僚であるK子さんから打ち明けられた話です。
以下、K子さんの語り。

その日は、雨が絶え間なく降っていました。
知人の葬式の帰り道、六歳の息子を連れて、
二人で傘をさしながら歩いていた時の事。
手を繋いでいた息子が、ふと、私の手を振りほどいたんです。
執拗な雨のせいで早く帰りたかった私は、
「もう何してるの、早く帰るわよ」 と、振り返り、息子に言いました。
が、その時です。

振り返った先に息子はいました。
ですが、一人ではなく、二人……。
何を言ってるのかと思われるかもしれませんが、
信じられない事に、私の目の前には、身に付けた衣装も、その顔も形も、
全く瓜二つの息子がいたんです。
もちろん私の息子は双子なんかじゃありません。 一人息子です。
もう訳が分からず、 「えっ!えっ!?何で!?」 と、
一人混乱していた時です。
二人の息子が、ほぼ同時に、 「ママぁ……」
口を歪め、ニヤァっと笑ったのです。
「あぁっ!うぁぁっ!」
気が動転した私は、目の前にあった小さな息子の手を取り、
強引に引っ張りました。
持っていた傘も捨て、その手を掴んで必死にその場から走ったんです。
息を切らせながら一度だけ振り向くと、泣きながら私に引き摺られる息子と、
その遥か後方に、傘をさして一人立ち尽くす、もう一人の私の息子が、
此方をじっと見送っていました。
その後は無我夢中でした。
家に帰り着くと、息子はわんわんと泣いていて、そんな息子を抱きしめながら、私も声を上げて泣いていました。

ですが、それから十年が立った時です。
近所の土砂から、身元不明の子供の骨が、発見されたんです。
近所では結構大きな騒ぎでしたので、私も気になって野次馬に混じっていたんですが……。
見てしまったんです……次々と警察や消防隊の方が運んでゆく物の中に、
十年前、私の息子がさしていたあの傘を……。
ボロボロで錆び付いた鉄クズでしたが、
私にはそれが、昨日の事のように、明確に、ハッキリと、あれが息子がさしていたものだと、分かったんです。
以上が、K子さんが私に打ち明けてくれた話です。

最後にK子さんはこう言ってました。
最近、息子の行動や言動が変なんです……。
何もない虚空を見上げニヤニヤと笑ってみせたり、
ブツブツと、独り言で誰かと喋っていたり……
今家にいる息子は、本当に、私の息子なんでしょうか? と……。

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