幽霊性痴ほう症

これは笑えるんだけどシャレにならんかった話。

30代半ばのころ、気まぐれである山奥に女房と猫数十匹を引き連れて移り住んだ。
まあ呑気な山奥で、正直なところ住人の性格は本当に良くなかったが、
いろんな野生動物…狸一家・イノシシファミリー、カラス一族、
さらにはアライグマにニホンカモシカ、
ついでにクマ親子など、いろんな訪問者があって、
みんな仲良くなって本当に楽しかった。

ただ問題点が一つ、オフィスから家まで車で1時間半くらいかかるんだけど、途中の国道や高速で、やたら変なものと仲良くなってしまうのである。

そんな時、私の師匠ともいえる霊能者のおじいちゃんに縁あって出会い、いろいろ勉強もさせてもらい、拾った来たものを払ってもらったり、中途半端な霊感もちの私の感覚を磨いてもらってた。

そんなある日である。
深夜に出張先から帰宅するときにまたやらかした。
気が付いたらやたら寒いし、走行中に急激な体調不良になるし…。
これはやばいと思い、帰宅後すぐに女房に先生を連れてくるように頼み、ベッドに崩れ落ちた。

その時には拾ってきたものがはっきり分かった。
頭の禿げあがった小柄な爺さん。
妙ににこにこして、私に絡まりついてくる。
呼吸不全起こすは、頭は割れそうに痛いし、ニャンズたちはプチパニック起こしているし…。こりゃ私じゃ手におえんわ、見た目と違ってとんでもない奴である。

そこに先生、タクシーで到着。
私を見るなりいきなり「こりゃまずいわ」と一言。
女房が「先生、また何拾ってきたの」と尋ねると、いちばん始末が悪い奴じゃ、と温厚な先生に似合わぬ厳しい表情。
「お前絵、あそこの国道から帰ってきたじゃろ」
と、出張していた方面をズバリ言い当てる。
「途中でお通夜に出会わんかったか?」と言われて思い出した。
確かにあまり通ったことのない道沿いの田舎家でお通夜をやっていた。

「その爺さんじゃよ。始末の悪いことに生前は重度の痴ほう症だったと見える。それが高じて、たまたま通りかかったお前さんを、長男坊だと思いこんじょるわ。だからうれしくてうれしくてまつわりついとる。
まあこれも困るんじゃが、それ以上に始末が悪いのは、死んで時間がたってないから、自分が生きてるのか死んでるのかもわかってない。
ようは生者でもない、死者でもない、霊でもない、
中途半端な存在になっとるから、行き場がないんじゃ」
と恐ろしいことを言う。

話を聞いている間も、もう私の体力は限界寸前、
妙に陽気な爺さんの姿が本当に気持ち悪い。
先生はすごい厳しい表情で、爺さんを一喝。

すると爺さんはものすごくおびえた表情、
叱られた子供のようにしょげ返るが、動こうとはしない。
しまいには口をとんがらせて、先生に何か一生懸命反抗している。

「子供よりもコリャたちが悪いわ」

いささかあきれた表情になった先生だが、
地の言葉でものすごい勢いで説教を始めた。

そのころには私、半分以上意識消失。
後は女房が見ていた話。
普段は、とにかく霊を説得し、天からの案内人のもとに行かせて、
昇天させる先生だが、この時は思い切り爺さんを張り倒したそうである。

「もうこりゃ子供のわがままと一緒じゃ、
痛い目に合わせんとこいつはわからん」
とのこと。

いつも私から霊を引きはがすところを見ていた女房だけど
「初めて見た」
という現象が起きたらしい。

その爺さんが、思い切り不貞腐れた表情で、
何かにずるずる引っ張られるように私から離れていった、という。

「ありゃまだ天には行けん。まず自分の家に帰すことが先じゃ。いくらぼけてるとはいえ、本当に始末の悪い」
と先生大変にご立腹。

後期高齢者が後期高齢者、しかも自分より年上らしき爺さんをこきおろすという、妙な構図になったようだ。
ただ女房はそのあとの先生の言葉に思いっきり吹いた。

「ワシは絶対ああはならんぞ。絶対にボケんぞ」
と顔を真っ赤にして力説していたらしい。

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