病院廊下の怪人

不摂生と親からの体質遺伝のおかげで、人工透析を受ける身となった。

医者はデータも改善しているし、
透析を導入して正解だったとご満悦だが、私は不満いっぱい。
普通ならば水分を排泄できず、増えた体重(水分)を引き、
調節するのだが、私の場合は逆に半年でいきなり20キロ減った。
重度の精神的・肉体的疲労で飯が食えない。
コンビニで買ってくるサンドイッチ一つが一日で食いきれないのだ。
結果、一日の食事量は500カロリー以下、
女子高生のダイエットよりもひどい状態。
このままでは夏が越せるかどうかもわからない。

まあそれは置いておいて、今通っている病院は火木土が透析日。
土曜日は原則休診だから、救急窓口を通って、
透析センターに上がっていかねばならない。
これが大問題であった。

患者は皆、救急入り口に近いエレベーターを使い、透析センターの裏側,
資材室などがある廊下を使って通うのだが、
ここで私は毎回えらい目にあったしまった。
当然、当初は何も知らないから教えられたとおりに動いたんだが、
エレベーターを降りた廊下で、2度続けて意識不明。
空気がおかしいというか、ものすごい悪意、
以上に敵意を持った重い空気がまとわりついてくる。

そして3度目、その正体を見てしまった。
朦朧とした意識で歩き出した途端、正面からものすごい力で突き飛ばされた。
堅く冷たい廊下に腰からまともに転倒、そのまま動けなくなった。
怒り心頭の私は、私を突き飛ばした奴がいる方向を思いきりにらみつけた。
そしたら奴はいた。薄汚い爺さんである。
とにかく来るなよるなオーラ全開で,チビでよれよれの癖してすごい形相。
私はそいつが怖い、というより腰の激痛で動けず、必死で看護師を呼び、
車いすで運んでもらう羽目になった。

どうしたの、って聞かれるから、いや実は、と正直に話した。
案の定、また霊感話?みたいな反応をされたが、
若いか護符が数人、蒼白になっている。
後で聞いたら、彼女たちもお爺さんを何度か見た、というのである。
見えた看護師は、絶対に近づかないように、厳しく言い聞かせて、
どうしても通る必要があるときは
お守りと塩を持つようにアドバイスしておいた。

しかもたちが悪いのはこの爺、
この病院で死んだ悪霊かと思ったらどうも違うのだ。
実はこの病院、裏が古ぼけた墓地になっている。
どうやら病院を建設する際に、
いくつかの無煙などをつぶした可能性があることが、
古株の患者に聞いたところでわかった。
どうもその恨みを残した奴が居座って、
見える人間に自分の存在をアピールしているようなのだ。

それからは私も、遠回りして上がるようにしていたが、
また疲労困憊の体で意識もうろうとして私は、やらかしてしまった。
ついエレベーターが珍しく開いているのを見て、
救急入り口に近いそれに乗ってしまった。
とたん、ものすごい勢いで扉が閉まる。
そして病院エレベーターには必ずある、奥深い棺の収納スペースの入り口が、
いきなりバンバンバンと開閉を繰り返している。
たかだか1回から2回に上がるだけでこれだ。私はブチ切れた。
「いちいちうるせー!なめるんじゃねぇ」と、思いっきり怒鳴りつけた。
途端にエレベーターは静かに動き出した。ただ油断していた。

透析終了まであと1時間のところで、
腕の血管に刺してある針が2本とも吹き飛んで、自分も周囲も血まみれ。
さすがに嫌気がさした。
帰りは普段タクシーを使うのだが、
乗る気になれなかったれ実は1時間前の話…。もうダメかも…。

朗読: 朗読やちか

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