これは大学生の頃、私が実際に体験した話です。
実体験であり、本人以外にはあまり怖く無いかもしれませんが、
よろしければお付き合い下さい。
当時通っていた大学の最寄り駅には大きなカラオケ店がありました。
駅からのアクセスがよい事に加え、料金も安めで
部屋数が多くて待ち時間が少ない事から大学の友人とは良く利用していました。
しかし、その店にはある噂がありました。
それは
「あの店の4階は心霊的な何かがあり、その階のある部屋が特にヤバイ」
と言うものでした。
友人から初めてこの話を聞いたときには信じてない訳ではないですが、
内心「縁起が悪いと言われる4の付く階に出るなんてありきたりな話だな」と思い、あまり気にしていませんでした。
そして、噂話を聞いてから数週間後。
ある真夏の暑い午後、昼の授業が急に休講になり時間が空いた日がありました。
私は、授業が無くなり自由になった開放感と
外の暑さの為クーラーの効いた部屋に入りたいという気持ちが合わさり
急にカラオケに行きたくなりました。
しかし、仲の良い仲間は別の授業がある為、私は一人で行くことにしました。
例の噂を忘れたわけでは無かったのですが、
他の店との距離や値段で天秤を掛けた結果、
今まで4階には当たっていなかった事もあり
「沢山の部屋がある訳だし例の部屋に当たらなければ大丈夫」と軽く考え、
その店に向かいました。
学校から駅近くの店の前まで歩いていき、
店の前までたどり着くと自動ドアが開きました。
外はひどく暑かった為、熱のこもった体に店内の涼しさは有り難く、
私は自然と気が緩みました。
カウンターの奥から「いらっしゃいませ〜」と言う店員の声が聞こえてきます。
受付の紙に名前と利用時間などを記載していると、
店員に注文する飲み物を尋ねられたので、
私は「アイスウーロン茶をお願いします」と注文しました。
店員はメニュー確認と部屋選択などの作業を終えた後に
利用時間や料金が書かれた伝票を私に手渡しながら、
「4階の4○○号室のお部屋となります。階段かエレベーターをご利用下さい」
と伝えてきました。
4階。
そう聞いた瞬間、私の今まで緩んでいた気持ちが
キュッと締まるのを感じました。
部屋を変えてもらうことも考えましたが
「霊がでると聞いたもので」と説明する訳にも行かず、
私は案内されたままエレベーターで4階へと向かいました。
エレベーターのドアが開き4階に着いた時、
深緑を基調とした壁紙と緑色を帯びた灰色の廊下が目に飛び込んできました。
私はエレベーターから廊下に出て、以前に利用した他の階に比べて何だかフロア全体が暗く感じることに気が付きました。
とは言えキャンセルできないし帰るわけには行かない。
私は壁紙や床の色が他のフロアに比べて暗い色使いだった事と、
噂のイメージでそう感じているのだと自分に言い聞かせることにして部屋へ向かいました。
フロアの廊下はロの字型になっており、
エレベーターが字の下側の真ん中辺りだとすると
私の4○○号室は上側の右奥に位置していました。
廊下を進み、4○○号室のドアを開けました。
すると締め切ったムッとした空気が吹き出し、私の頬に触れました。
私は電気を付けながら壁のクーラーのスイッチを見ました。
すると電源は入っているようでしたが、
何だか空気が重く蒸し暑く感じたのでした。
飲み物は後から運んできてもらうシステムだった為、
デンモク(液晶の機械)を見ながら店員が来るのを待ちました。
「あれ、結構古い機種だな。これ」
そのデンモクを見た私は思わず、そうつぶやきました。
当時カラオケのデンモクはカラーの液晶ディスプレイが主流になっており、
この店で以前利用した部屋でもカラーのものでした。
それに対して、この部屋のものはモノクロで灰色の背景に白枠で区切られたメニューが表示されているかなり懐かしいものでした。
普段ならハズレの部屋引いたなと思う程度なのですが、
例の噂のこともあり不安になっていた私は
「噂のヤバい部屋とはここの事で、普段なるべく使わないようにしていて機種も古いままなのでは…」と良くないことを考えてしまいました。
そこでノックが聞こえ、店員がお盆にドリンクを乗せて入ってきました。
その店員は私と、なぜか私の横を見ながら
紙製のコースターをテーブルに2枚並べ、
其々にウーロン茶の入ったコップを置くと
「ごゆっくりどうぞ」と告げて、サッと立ち上がり
素早く部屋を出て行ってしまいました。
私はここで指摘することもできず、暫く固まってしまいました。
なぜ店員は1人しか居ないのに2つのコップを置いたのか。
もちろん手違いの可能性もありますが、店員が私だけでなく、
その横に目をやった事が気掛かりで、とても恐ろしく感じました。
それから数分フリーズした後、恐怖を感じている状況なのにも関わらず
カラオケという場所もあってか、私が取りあえず何か歌わなければと
適当に曲を入れて歌っていると曲が終了した頃に
店員が「すみません」と謝りながら部屋に戻ってきて
ドリンクを回収していきました。
その店員は忙しいのか酷く焦っていて、
コップを回収すると足早に部屋を去って行きました。
その時のことを振り返ってみると
「手違いで〜」とか「間違いで〜」のような理由の説明は無く、
回収していたように思います。
この様子を見たとき
「ドリンクは間違いではなく、本当に私の横に誰か見えていたのではないか」
と思えて仕方なくなり、
一応入れてしまっている曲を何となく歌いながらも
恐怖で背すじと頭が寒くなり、ピリピリと張り詰める感覚に襲われました。
更にしばらくたった後、テレビに緑の木々が画面に映っている時、
これは見間違えかもしれないのですが、画面が一瞬暗くなり、
木の葉っぱと空の隙間が人の顔のように見える事が1度ありました。
その後は特に恐ろしい現象は起きず、
私は何とか予定時間まで滞在し終えて受付で支払いをして
店を出ることができました。
これは後日談ですが、
そのカラオケ店でバイトをしている友人が
別の友人と店について話しているのを聞きました。
以下その時の会話です。
バイトの子が
「この間受付してたら霊媒師みたいな人が来て
『この店はお祓いをした方が良い』って言ってきたんだよー…」
と困り顔で言いました。
別の友人がそれを聞き
「え〜。でもそう言うのって怪しくない?」と少し笑ってみせる。
「まあそうなんだけどさー」と続けるバイトの友人の声が聞こえました。
急にやって来る霊媒師は確かに怪しいかもしれませんが、
あのお店にはお祓いが必要なのかもしれないとその時思いました。
最後となりますが、こちらを書き込む際に調べた所、
そのお店は今もあるようです。
店舗名はもちろん言えませんが、駅近くの有名なチェーン店です。
駅前の大きなカラオケ店をご利用の際はご注意下さい。