旧犬鳴隧道の怪

福岡県の犬鳴峠にある旧国道トンネル(旧犬鳴隧道)は、
有名な心霊スポットである。

今から数十年前になるが、当時私は福岡市内の会社の寮で暮らしていた。
ある真夏の深夜、ふと暑苦しさに目覚め、その後は寝付けなくなってしまった。
そこで思い出したのが、「犬鳴隧道の怪」の噂である。
この際にその真偽を確かめようと、一人で出掛けることにした。

幸い車には燃料を補充したばかりで、夜ならエアコンの効きも良い。
寝静まった深夜の市街地を抜けると、国道の対向車もしだいに少なくなる。
さらに旧道に入ると急に山深くなり、対向車もまったくいなくなった。
急カーブと急坂が続く山道を、ライトをハイビームにして慎重に走って行った。やがて頭上には鬱蒼とした樹木が覆いかぶさり、峠に近づいたことが感じられた。 すると前方に、突然異変を感じた。こんな所に多くの車が止まっている。

ライトをロービームにして車列の脇をゆっくり走っていると、
その先には駐車スペースが無くなりそうになり、
そこからは車を路肩に止めて歩くことにした。

暗いトンネルの入り口に近づくと、なんとそこには
おびただしい人の群れが出ていた。
さらに驚いたのはホットドッグの屋台まで出ていて、
その周りでは飲物を手にした人たちが談笑していた。
そこからトンネルにかけては、あちらこちらに数名のグループがいて、
「まだ出ませんね」とか「今夜は休みですかね」などと話していた。
トンネルの中では、あちこちに懐中電灯らしき光の輪があった。
どうやら強力なライトで、奥を照らしているらしい。
これでは幽霊も迷惑で出て来られまい。
しまいには「早く出てこい!」という酔っぱらいの怒鳴り声まで…。
幽霊やその祟りの恐ろしさを通り越し、
あまりにバカバカしくなった私は、再び車に戻り真っ暗な夜道を帰って行った。

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