デザイナーズビル

20年ほど前の話、
ある中核都市にあった老舗のファッションビルが解体され、
行政も絡んだ新しいビルが建設された。

下はファッションビルの形式になっており、
最上階には肝いりで作られた
国際会議場にも使える空間になっているというもの。
デザインも大手コンサルティング企業が有名デザイナーに依頼し、
かなり斬新なものになった。

ところがこれが、妙に薄気味悪い。
外から見るとどうしてもものすごくいびつに見える。
わざと三角形を駆使s他デザインになっているのだが、
その分、すわりが悪いうえに、上部のほうがすさまじく不安定に見えると、
建設当時から評判は極めて悪かった。
正直、あんまり近づきたくない場所だと思っていたら、
その最上階ホールで有名なアメリカ人の精神心理学者であり、
スピリチュアル研究家の特別講演が開催されることになり、
妻と二人で出かけて行った。

この講演者の本は原書で読みこんでいたので、話を楽しみにしていたのだが、
ビルに入った途端、そして上階にあがっていくたびに、
すさまじい揺れと空気の流れの悪さを感じ、
気持ち悪くていかんとも仕方がない。
それでも無理して、質疑応答を含めても1時間半しかない、
ということだったので着席し、開演を待った。
でもだめだ。天井が落ちてくる感じはするし、
複雑なデザインのため音響も何か変、
やたらに割れるは妙なハウリングがするはで散々。

どうにも気分が悪くなった私は、
もう少し我慢をする、という妻を残して開演15分で外に出て、
置かれていたソファーに倒れこんでいた。
するとすぐに会場から、ものすごく厳しい表情をした初老の女性が出てきた。
そして私を見るなり「お前もか!」と鋭く言う。
力なくうなづくと彼女は
「ちょっと感の強いものなら、
この空間のまがまがしさに耐えられなくても当然だ。
私は尼僧だが、ここに入った途端にこれだ」
と言って、切れた数珠を見せられた。
「こんなゆがんだ空間を人為的に作り出すという、
バカなことをするから土地自体までおかしくなっている。
邪気がどんどん集まってきている。早く離れたほうがいい」
といいながら、もっていた水を私に飲ませ、
背中を思いきりたたきながら読経してくれた。

まだ終演までは1時間あるなあと思っていたら、
予定よりもかなり早い時間に閉演したらしい。
一気に人が会場から出てきたが、何かみんなさえない表情をしている。
そこに妻もやってきたので、ついていてくれた尼さんへのお礼もかねて、
近くのビルに場所を移して食事をした。
尼さんが妻に
「えらく早く終わったが何かあったんだろう」
と問うと、妻も大変だったんです、という。
聴けば縁者は登壇してすぐから、ずっと舞台わきの天井辺りを気にし続け、
話にも熱が入らない状態。
質疑応答の時間も早々に、さっさと演壇を降りてしまったという。

昔から、建物の一角を無理に削り落としたり張り出すデザインは、
災いを招くというがここはまさにその通りだった。
そこではっと思い出した。
この会場のこけら落としの際、
同業者ではないが知らない中でもない舞台設備会社の女の子が、
セッティング中謎の転落死を遂げていたことを。
尼さんにそのことを告げると、
ここはまだまだ事故が起きる、もう近寄るな、と心底不愉快そうな表情で言い、
席を立った。

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