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先達

やたらな猫好きな私。
近所に住んでいたボスママ猫(当時推定年齢10歳)が、
我が家にある日突然住み着いた。

高齢にもかかわらず、毎年春になると必ず出産し、
猫の頭数はどんどん増え続けていくばかり。
こりゃあいかんということで、相続トラブルもあった家を捨て、
山間部にニャンズたちとともに引っ越しをした。
もちろんほかの子は避妊していたのだが、
ゴッドマザーだけは高齢ということもあり、
獣医があまり手術に乗り気でなかったため、仕方なくそのままにしておいた。

そしてもう一匹、ある日本当に小さな真っ白な子猫が家に飛び込んできた。
大風邪をひき、顔もぐちゃぐちゃで慌てて病院につれていき、そのまま保護。
生後3ヵ月くらいだったようだ。
この子、不思議なことにニャンと鳴けない。
ワン・キャンとしか声が出ない。
どうやら生まれてすぐから犬に面倒を見られたいたらしく、
仲間の猫より大型犬が大好きという不思議な子。
気が小さく、おなかを見せて甘えるのは家族の中で私にだけ、という始末。

ところがこの子、怖ろしく早熟だった。
生後1歳になる前にもう妊娠、2匹の真っ白間子を産んだ。
そしてまた半年後、5匹を出産。
ここであわてて手術をしたが、
医者も「この小柄な体で」と驚く肝っ玉母さんだった。
総勢30数匹、時にはゲストや、
ちゃかりニャンズに取り入って住み込んでしまうやつもいて、
谷しい日々を過ごしていたが、突然悲劇が襲った。

よそ者と、私たちを目の敵にしていた住民が、
重症の猫エイズを患った自分の飼い猫を我が家に放り込んだのだ。
あっという間に、子供った胃から感染。
手当ての買いもなく次々絶命していく子供たち。
いつも見てもらっていた親切な獣医さんが高齢で引退し、
若い開業したての獣医に見せたのも悪く、
誤審もあいまってあっという間に10数匹が犠牲になってしまった。
その時の話である。
猫というのは本当に不思議な力、心があると知らされたのは。
まずはゴッドマザーと白猫、自分の子他人の子かかわらず、
命の穂脳が消えそうになると、必ず1晩きっちりとその子に付き添うのだ。
そして火葬にするまで亡骸をきっちりと見守り、
出棺の時には何度がやさしく棺を肉球で数度たたき、
行ってらっしゃいという顔をする。

そういえば自分が流産・死産したときも同様、
最後は私に「お願いしますね」という顔で、見送るのだ。
そしてもう一人、不思議な子がいた。
白猫の娘の一匹だが、生まれたときに口蓋裂があり、
助かるかと言われた子だったが、無事に成長したが、
極めて無口で飄々とした猫に育った。
なんとなく私も妻も、その子の雰囲気からシスターを想像していたのだが、
彼女の最後はまさにその通りだった。
彼女には同時に生まれた弟がいたが、12歳を超えたころから癌に苦しみ、
私たちのそばから離れようしなかった。
そんな弟を不憫に思ったのか、無口だった姉が急に多弁になり、
弟の望んでいるだろうことを代弁するようになったのだ。

水、食べ物、ブラッシング、グルーミング…彼女の要求は皆正しかった。
そして弟が息を引き取る晩、彼女は突如立ち上がった。
口に小さな鈴を咥えて。
するとどうだろう、寝たきりだった弟が急に歩き出した。
そして私たちの顔を見て『にゃあ」と一言鳴くと、弟を連れ玄関に向かい、
扉を開けろという。
普通なら止めるのだが、そのかをと姿は神々しく、私たちは止められなかった。
すると彼女と弟は夕闇の中を外へと歩みだした。
まさか、と思うほどしっかりした足取りで。
彼女たちが向かった方向は、古いうち捨てられたかのような山寺だった。
ちりんちりんと、彼女が加えた鈴の音がかすかに聞こえる。
そしてそのまま姉弟は戻らなかった。

最後の最後に彼女は、弟の先達を成し遂げたのだ。

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