停まれない駐車場

これは私の友人が、まだ新米教師だったころの話。

彼女はある病院の中にある院内学級担任として赴任した。
その病院は、戦前からある古い病院で
幾度も幾度も改築や増築を繰り返した建物であった。
やはり歴史がある分だけ、君の悪いうわさも数多く、
オカルト系を全く信じない彼女でも、何か嫌な感じはしていたらしい。

そんなある日、出勤してみると院内がやけに騒がしい。
どうやら何かの学会か研究会かが行われるとのことで、駐車場も満車。
新米教師の身としては、あまり目立ったこともできず、
いつもの駐車場をあきらめて、 古い放置された建屋の裏にあり、
普段は誰も立ち寄らないような場所に車を停めた、というか止めようとした。

そこで異変は起きた。
低速で侵入し、徐々にスピードを落としているにもかかわらず、
ブレーキが全く効かない。
最後には床につくまで踏み込んでも踏み抜いてしまうだけ。
ハンドル操作もままならず、ああやったなぁと思ったところ、
生茂った草に隠れていた、
小さな石の塊にバンパーが接触、かろうじて停止した。

車を降りて彼女が見たもの、それは小さな石碑だった、何やら供養塔らしい。
ぞっとした彼女は、すぐさま院内に駆け込み、
ベテランの事務員の叔母さんにすべてを話した。
「あんたあそこに行ったんかね?」
と目を丸くした叔母さんの顔は心なしか青ざめていた。
「あそこはダメだよ行っちゃぁ。あんた気が付かなかったんかね。
目の前に古い建屋があったろう。
あれはな、昔隔離病棟として使われてた場所で、
普通ならとっくに取り壊されているはずが、
いろいろな理由で壊せずに残っているんだよ」
叔母さんによれば、建屋自体は壊そうと思えば壊せる。
しかしその地下にある地下道がどうにもならん、ということだった。
昔のこと、伝染病で死んだ人間を大っぴらに表から運び出すことができず、
その地下通路を通って目立たないように搬出したらしい。

慰霊塔は戦後になって、いろいろな祟りを恐れた関係者が立てたようだが、
時間の経過とともにその存在も忘れられたのだ、とも。

彼女はその足で、授業も休講にして以来、
ホームセンターに走り線香と花束を買い、塔に手向けた。

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