ケンモア・インの夕陽

これは前世の自分に出会った話です。
もしかすると時間と空間を越えて、
同じ場所で同じ夕陽を見たのかもしれません。

自分でも信じられず、まさかとは思いますが、
今でも忘れられない思い出を記します。
私にはアメリカ人のまた従弟「アントニー・M・高橋」という、
母方の伯父の三兄弟の長男がおり、日本で親しく付き合っていました。
その彼が結婚することになり、式は花嫁の故郷である
合衆国フレデリックスバーグという町で挙げることになりました。

この町はヴァージニア州にあり、南北戦争時代の面影を残し、
数々の史跡があるアメリカ南部の古い町でした。
そこにある花嫁の母教会で挙式した後、
町で一番古い「ケンモア・イン」というホテル(植民地時代の宿屋)で、
披露宴に当るパーティーが行われました。
その時、私の周囲はすべてがアメリカ人で、初めて出会う人達ばかりで、
話す言葉も訛りの強い南部の英語。
次々と押し寄せる未知の人波と、慣れない言葉での会話に疲れを覚え、
ふと宿の裏庭に出てみました。
ちょうど南部の古い町に夕陽が沈むところで、
それがとてつもなく大きく、かつ真っ赤に見えました。
この夕陽はいつかどこかで見たことがある。
ふとそんな気がして、私はいわゆる強烈なフラッシュバックを覚えました。
それから帰国後の数日が経つと、毎晩毎晩同じ夢を見るようになりました。

それは会社の受付カウンターのようなところの前で、
頭にかぶった帽子を取りながらこう言っているのです。
”I am William A’Cart from FAA”
(私は連邦航空局のウィリアム・アッカートという者です)。

しだいに手にした帽子の質感までわかるようになりました。
それはフェルトのような厚地で、戦前のかなり古い時代の物のようでした。
夢はいつも同じで、ここで覚めてしまうのです。

そこでいろいろと調べてみると、
それは設立後間もない頃の連邦航空局(FAA)で実際にあった、
地方航空会社の査察官という仕事でした。
どうもそれが私の前世だったようなのです。
しかもその名前まではっきりしているのです。
試しにFAAの名簿や年鑑を調べてみましたが、同じ名前がたくさん出て来て、
どのウィリアム・アッカートが自分の前世だったのかは判りません。
このため前世の自分がなぜ死んだのかも不明です。
おそらくは査察の途中で航空機事故に巻き込まれたか、
戦争に参戦して撃墜され戦死したのかもしれません。

なぜ自分が自分の前世に巡り合えたのか不思議ですが、
おそらくはあの時に見たケンモア・インの夕陽が、
その原因なのかもしれません。
強烈なフラッシュバックが、
現世の自分と前世の自分を結び付けてくれたのでしょうか。
あるいは前世の自分もこの同じ宿に泊まり、同じ夕陽を見たのかもしれません。

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