霊たちのタクシーにされた

 青森市内に住んでいた妻の父(義父)は、大の車好きだった。そのため中古車を乗り換えては、車種の違いを楽しんでいた。

 その義父は青森全県で、ある機械修理を請け負っていた。
 それが新たな中古車に買い替えたとたん、下北方面ばかりに呼ばれるようになった。
 さらに不思議なことに、下北への往復に限って、なぜか車が重いのである。
 それはアクセルやハンドル操作にも伝わってくる。
 これはおかしいと思い、念のため燃費を測ってみた。
 すると市内や県の他方面に行く時と、下北方面に行く時とでは、明らかに大きく違っていたのである。
 やはり不審に思い、購入した中古車ディーラーに相談してみた。
 行先でもって燃費が大きく違う。しかも下北方面への道は平坦で、急峻な山越えをするわけでもない。
 これを聞いた担当者は、その中古車の前オーナーが、下北半島の恐山近くの寺の僧侶であったことを明してくれた。
 まさかと思いながらも義父は、霊能のある人にその中古車を見てもらった。
 するとこの車には、下北往復のたびに十数人が乗っていると言われた。
 その車は5人乗りの普通車で、どう考えてもおかしい。どうやらその十数人は、青森市内に行きたかった霊たちのようだ。
 義父の車は、まるで霊たちの乗合タクシーにされていた。
 このままでは何度でも下北往復を、しかもそれを拒否すれば、どのような祟りがあるのか想像もつかない。
 あわてた義父は、その車をすぐに買い替えた。
 するとそれからは、下北方面に呼ばれることがめったに無くなった。

 義父は中古車を買うときには、前所有者に十分注意しなければとしみじみ言っていた。
 しかし私は、これは青森県内だけの事ではないと思っている。

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