古戦場跡地

まだ私がサラリーマンをしていたころだから、かれこれ30年にもなるか。

ある晩、接待で夜中2時過ぎまでバカ騒ぎをし、
そろそろお開きということになった。

その席の主賓は、取引先の部長だが次長高で、私はこの男が大嫌いだった。

何でも取引先の親族とかで、役職も名目だけらしいが、あほな社長はこの男に懸命に取り入ってはゴマを吸っていた。
私は担当業務も違い、直接接する機会はなかったのだが、何かにつけ社長を名指しで電話、こっちが殺気立つくらい忙しい時でも、あほな社長は、ゴルフだ恩納だの馬鹿話を大声でしているような状態で、お声がかかればいそいそと出かけていく。
まあたかり屋みたいなものだ。

珍しく全員、仕事が一段落した夕方、部長の提案で慰労会をやろうという話になった。
和気あいあい、のんびりやってるところに、なぜかあほ社長がたかり屋を連れて乱入してきた。

座はどっちらけ、ご機嫌なのは2人だけで、飲んでいたいつもの静かな小料理屋から、フィリピンパブだキャバクラだ、高級ワインバーだと引きずり回されて気が付きゃ前述の時間と相成った。

正直、酒の飲めない私はいい加減うんざりしていた。

そしたらバカ社長が突然
「隅野君、君酒飲めなかったな。Mさんをお宅まで送ってくれないか」
と言い出した。

当然断りましたよ。
しかも自宅の方向を聞いたら、我が家と正反対。
いい加減にしろ、ですよ。

激怒しかけた私に、世話になっていた制作部長が、あとで埋め合わせはするから、と頼み込んできたので顔をつぶすわけにもいかず、しぶしぶ引き受けた。

その時にピーンときた。
指定された住所は確か古戦場の跡だ。

実際、そのあたりは私も相性が悪く、近くに用事があって出かけると、必ず見Tに迷って帰れなくなるといういわくつきの土地。

ならば、と私もバカなことを考えた。
思いっきり怖がらせてビビらせれば、このたかり屋もちょっとはおとなしくなるだろうと。

そこで自分も怖かったが、やばいルートの中でもいちばん危ない目に合う可能性が高いルートを選択。

車を走らせた。
そこは一見すると、きちんと整備された新興住宅街なのだが、少し霊感のある人間なら必ず何かを見てしまう、といういわくつきの場所。

丑三つ時も相まって、いつもよりなお雰囲気が悪い。
後部座席じゃ偉そうに、たかり屋がそろそろ左だ、とかあの道をこっちだ。とか泥酔状態で指示してくる。

はいはいわかりましたよ、どうなって知りませんからね、
との思いで私はハンドルを握っているしたら案の定、きましたね。

たかり屋が指示した道の方向からの凄い砂嵐が吹き付けてきた。

視界限りなくゼロ。
来たな、思って車をイに寄せて止める。
たかり屋、もう顔真っ青をアワアワ状態。

「なーにすぐですよ」
と受け流し、前方を見れば巨大な青い光の玉が全速力で飛んでくる。
そのあとからは、鎧武者の集団が一定のリズムで行進してくる。

たかり屋、泡を吹いてダウン。
私はといえば、過去の経験からこの場所に現れる霊団は人を襲うものではないと確信していた。

ただ生前の姿を何度も再現しているのだ。
思った通り、光の玉も武者たちも黙々と車の脇を通り過ぎて行った。

その後、泡吹いてるたかり屋をひっぱたいて叩き起こし、自宅まで案内させた。

もうこれで懲りるだろうと思ったら、なんとこの馬鹿、人生で一番怖い経験をした。でももう一回見てみたい、とか会社で吹聴していたらしい。
馬鹿は死んでも治らないようだ 。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-

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