夢と鳥居

これは、つい最近の話です。

ある日、私は不思議な夢を見ていました。
夢の中の私は綺麗な着物を着て、花が沢山咲いている場所を歩いていました。
私はひたすら歩きながら(こういう場所、前に来た事あるかも)
と思い出していました。

以前、私は肺炎で生死の境をさまよった事があり、
その際に見た光景とよく似ていたのです。
しかし、今の自分は健康そのもの。
(夢だし、似ていたとしても、何もおかしいことは無いかな)
そう思った私は、ふと顔を上げました。
目の前に大きな赤い鳥居が立っていました。
鳥居の向こうは暗い影のようになっていて、よく見えません。
私が鳥居をぼんやりと見上げていると、どこからとも無く、
何かを打ち付けるような音と子供の歌声が聞こえてきました。
私は(入っちゃいけない)と強く思いましたが、
足は私の意志とは反対に鳥居の方へと向かっていきます。
鳥居の方へ一歩、また一歩と進んでいく度に
何かを打ち付けるような音は大きくなり、
子供の歌う声もはっきりと聞こえてきます。

「てんてんてんまり てんてまり」
楽しそうな歌声に合わせるように何かを打ち付ける音は、
時々グシャッとも、ブシャッとも聞こえるような音が混ざっているようでした。
とうとう私は、鳥居の中へと一歩足を踏み入れようとしました。
その時、私は物凄い力で後ろに引っ張られるようにして鳥居から離れました。
驚いて振り向くと、いつから居たのか
黒い着物を着た背の高い男の人が、私を見ていました。
私はこの人が助けてくれたのかと思い、男性にお礼を言おうとしましたが、
もうその男性は居なくなっていました。
見ると鳥居も跡形もなく消えていました。

気がつくと、朝になっており、私は自室の布団の中で目を覚ましました。
あれからあの夢は二度と見ることも無く、
特にこれといった怖い事なども起こっていません。

ただ、今でもあの子供の歌声が耳に残って離れないのです。

朗読: 朗読やちか

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