狸のお参り

これは私の友人(僧侶)のおじさんに当たる方から聞いたホッコリ話。

私はクリスチャンなのでお寺とは相性が良くないのだが、
なぜかこの友人と和尚さんとは仲が良く、
ちょこちょこ遊びに行っては面白い話を聞かせてもらっていた。
これはそのうちの一つ。

おじさんである和尚さんが監理する寺は歴史も古く、
まあまあの広さの墓地も併設している。
当然管理も大変なのだが、夏場になるとこれがまた大ごとになりやすい。
いわゆる地元のDQNや族どもが肝試しと称しては墓荒らしをしていくためだ。
そこでさすがに温厚な和尚も腹に据えかね、
夜中にとっつかまえようと寝ずの番をすることにした。
もちろん甥っ子である友人=寺住みもお付き合い。

すると早速来ましたね、ヤンキーと思しき集団が。
ひとしきり騒がせて置いた後、
警察に連絡しようと陰からそっと見ていると酒は食らうわ花火を始めるは、
そこら辺の墓石を蹴り飛ばすわ…
悪行の数々。そろそろ潮時と思って
かねてから懇意にしていた警察に電話しかけたとき、
餓鬼たちが騒いでいる方向から異様な明かりが近づいてきた。
さすがの和尚も驚き、ありゃなんじゃ?と思ったら
餓鬼たちが悲鳴を上げて逃げ回り始めた。
まさか!丘になっている墓地の上のほうから
猛スピードで車が餓鬼たちのほうに突進していく。
ギョッとして立ちすくんでいると車は何とタクシー。それも2台。
悲鳴を上げて逃げ惑う餓鬼どもを確かな運転で追い詰めていく。
墓石に激突して倒れるやつ、山の上から転がり落ちるやつ、
失神する奴と現場は供覧状態。
ひとしきり制裁を加えるとタクシーは猛スピードで和尚たちの前を通り過ぎ、
一般道を走り去ったそうだ。

もちろん餓鬼どもは警察を呼ばれて全員アウト。
はいいが、そんな馬鹿な。と相成った。
だいたいあの参拝用の狭い道に車が入れるわけがない。
よく考えたらエンジン音もしない。
それより山に来るまで登れる道がないのだ。
和尚さんも警察に事情を聴かれたが
「まあ悪さをするから仏罰が当たったんでしょうな」と答え、
タクシーが車がと騒いでいた連中は、
肝試しの異常な精神状態による集団ヒステリーで片付けられたらしい。

その騒ぎを見ていた友人は、はっと思い当たって大笑いした。
「どうした?」と聞く和尚さんに
「あのタクシー、しっぽがあったわ。色は可笑しな焦げ茶色だし」
…そこで和尚も気が付いて大笑い。
この和尚さん、ねっからの動物好きで
寺にも猫がいつも10匹以上うろうろしてるし、犬もか数匹飼われていた。
そんな人だけに、事故死した動物や野生動物も哀れに思い、
慰霊塔を立てて丁寧に供養してやっていた。
「ということは何か?猫バスならぬ狸タクシーか」
と甥っ子と二人で大笑いしたそうな。

動物たちにもちゃんと魂はあって、自分たちの安息の場を荒らす奴、
ご供養いただいている和尚に面倒をかけるやつは絶対に許さん、
と怒りまくった結果がこれだったよう。
ちなみに
「あれは死んだ狸じゃないな。ご先祖様に命じられた生きた狸の仕業だな」
と、和尚さんと友人は芯から楽しそうに笑った。

朗読: 朗読やちか

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