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マッドサイエンティスト

これはまだ私が高校生の頃の話。

幼いころから探偵小説にどっぷりつかっていた私は、
学校でも家でもひたすらミステリーを読みふけっていた。
恥ずかしながら還暦手前になるまでに読んだミステリーは、数万冊に上るだろう。
それはさておき高校2年生の時だ。
なぜか中学から同級だったクラスメイトの母親から目の敵にされ、
学校内外でないことないことうわさをばらまかれ精神的にも滅入っていた。
余計日本に耽溺するようになったのもそれが気脚気だった気がする。

休み時間もクラスメイトが疎ましく、校舎裏で本のページをめくっていた。
そんなある日、イギリスの古典ミステリを入手、
もちろん英語版…を読みふけっていたら突然、頭の上から声がした。
同級生のA子だ。この子は正直、巨体で頭ぼさぼさ,
どう見てもセーラー服の似合うタイプでなく、
極度に口数が少なく女子ともつるまない、
男子には相手にされないという私同様浮いた存在だった。

正直、そんなA子に声をかけられても迷惑だった俺は、
つっけんどんになんだよ、と返した。
すると無表情なA子がニタァという感じの笑みを浮かべながら
「それ無理だよ」と言ってきた。
どうやら視線は、私の読んでいるミステリに注がれているみたい。
思わず「何が?」と聞き返すとまた普段通りの能面のような無表情になって
「その毒殺トリックさ。化学知識があればすぐわかる。
そんなに都合のいい物質なんかこの世の中にないんだよ」
私は正直、驚いた。
ミステリマニアの私が懸命に神田の古書店に
長年頼み込んで手に入れた一冊を彼女が読んでいたことに。
「なんで、なんでそんなことを?」
「社会を憎んでいるからさ。
毒物に関する本はフィクション・ノンフィクション問わず片っ端から読んでいる:と恐ろしいことをいう。
「毒物で回りに復讐する、という考えはやめたほうがいい。
今の鑑識技術じゃ大抵バレる」と余計な一言を残し、教室に戻っていった。
心底、A子が恐ろしく見えた。
3年生になって理系文系と別れたため、
A子とはそれ以来口もきいたことがない。

よって彼女がどうなったかも本当のことは知らない。
ただ風のうわさに聞くところでは、
数学と化学の成績だけ群を抜いていたため、
進学先はどこかの薬科大学だったようだ。聞かなきゃよかった。
あいつが薬剤師?いや研究者?開発者?いつか世間に復讐するのだろうか

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