偽坊主の末路

 まず前置きをしておくが、私は多少霊感がある。
 といっても、霊を供養したり昇天させたりできるような力もないし、修行も積んだことはない。
 ただ時々、見えたり聞こえたり感じたりする程度だ。
 だから絶対に危険な場所に自分から近づいたり、霊をどうこうしよう何ぞという気はさらさらない。
 極論を言えば、心霊スポットなどに行き祟られた、なんて奴は勝手に苦しんでろとしか思えない。
 人間だって自分の家に土足でづかづかと入り込まれて、荒らされたら激怒するだろう。
 霊には霊の世界があるのだから、そこに勝手に入り込めば相手を怒らすのは必然。
 祟られた助けてくれ、なんぞというのは醜悪な限りだし、霊に対しても本当に失礼だ。
 そういうやつらは全部、自分で一生祟りを背負って行けとしか言えない。

 それに話は変わるが、私も仕事柄いろいろな人にあってきたが、金で霊を何とかする、という人間に、まともな霊能力があるやつを見たことがない。
 特にひどいのが坊主である。
 もちろんクリスチャンである私から見ても、本当に得の高い熱心なお坊さんも数多い。
 その一方で、名ばかりの坊主という人種が多いのも確かだ。
 宗教系の学校を出たとか、一定の修業をしたとかならいいが、しばらく寺に転がり込んでいた、とか、学校は行ったが必要な修行をしていないで、袈裟だけ来ているような人物も少なくないのだ。
 この話は、私が出会った一人の立派な霊能者の方、金で人を助けるとか霊を助けるとかいう考え方の全くない、実に清貧な暮らしをしていたご老人から伺った話である。

「本当はのう、こんな話はしてはいかんのだが、
同じような奴が出てくるだろうから、警鐘のために話す」といって、重い口を開いてくださった。
 この老師の地元に、10年ほど前に大きな寺が建った。
 ただ胡散臭いのは、仏教のどの周波にも属さないのをポリシーにしているというのだ。
「本来仏の教えは一つ、それを手前勝手に解釈して己の宗派だけが正しいというのはおかしい。私はすべての仏を受け入れる」と。
 一見すると素晴らしいことを口にする。
 もちろんこの坊主、前歴も何もさっぱりわからない。
 何かどこかで、有料者の家の災難を防いだか何かといって、スポンサーを見つけて大金を引き出させ、ひいては休眠中の宗教法人を買い取って、その教祖というかトップになりあがったようだ。
 利は0に近いが、眼光鋭く筋骨隆々、押出も聞けば弁もたつことから、急速な勢いで寺は成長したようだ。
 しかも本人は、宗教家というよりも典型的な商売人。
 とにかく金を積めば積むほど徳を積むことができるといって憚らない。
 そしてある年の盆のころ、寺の大幅な拡張工事を始めた。
 何をするかといえば、今までは行っていなかった水子供養の大々的な場所を造成する、そのほかにも動物霊園なども作るという鼻息の粗さ。

 それからしばらくは、水子供養専門の場所ができたというで、近隣はもとより遠方からも信者が押し寄せたそうだ。
 一見、順風満帆、坊主丸儲けの日々が続いたようだが、間もなくして異変は起こった。
 その教祖がたびたび奇行に走ったり、わけのわからないことを言い出して周囲を困惑させる。
 とてもじゃないが口にできないような姿をさらしたり、挙句は全身に原因不明の発心ができ、膿がたまり、いたみでのたうちまわるという日々が続いた。
 もちろん医者もダメ、困り果てた取り巻きたち、ぐるになって金儲けを企んでいた連中が最後にたどり着いたのが、なんと別の霊能者に見てもらうという方法。
 そこで泣きつかれたのが、この話をしてくださった老師だった。
 話を聞いた途端、老師は
「これはどうしようもない」とすぐにわかったという。
 それでも、と無理やり担ぎ込まれてきた教祖の姿は、まさに地獄の亡者そのものだったという。
 本当にあまたの人を救ってきた老師ですら、怖ろしいとしか言えない状態だったいう。
 教祖にとりついていたのは、何千という水子、動物霊、そのほか低級霊は数知れず。
 頭から足の先まですべて食い荒らされており、手が付けられない状態だったという。
 老師は正直に告げた。
「これはもう自分の業じゃ。地獄に落ちてもなお助からん」と。
 聞けば水子供養も大金をむしり取っては、適当に戒名らしきものをつけるだけであとは放置、ろくに経を上げることもしておらず、迷った水子がまた水子を呼び、というさまで巨大な霊団、しかも放置すればするだけ悪霊化する状態を引き起こしていたのだ。
 その後まもなく、自称教祖は苦しみぬいて死んだそうで、寺もヒッソリと廃寺になたっということ。

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