人違いも甚だしいわ!

今だからある程度話せるが、
何もしていないのに刑事につけられたことがある。
まだ私も血気盛んな年代だったころだ。

例の某真理教事件が起きて、首謀者たちが指名手配で全国大騒ぎになったころ。
私のルックスが悪かった。
今は病気でやせ衰えたが、当時は完全な肥満体で、
しかも丸顔ひげ長髪、よく仲間内では、首謀者に似ているとからかわれていた。
しかも運が悪いことに、事務所を構えていた場所が、
某真理教の経営するパソコンショップ兼地方支部に近いビルだった。
ここまでくると笑えるが、当時レンタルしていた車が、
なんと山梨ナンバーの国産高級車。
ついでにいうと私はド近眼∔乱視で極端に目を細めて人を見る癖があった。

そんなこととはつゆ知らず、たまたま入った喫茶店で仲間たちと談笑していた。
こいつらもまた私の同業者=物書きとか役者とか
ちょっと変わった経路の連中ばっかり。
しばらくすると、何か店の雰囲気がおかしいことに気づいた。
結構入っていた客がこっそりといった感じで早々と席を立つのだ。
しかもみな,私たちと目を合わさないようにしている感じ。
場所柄、結構ガラの悪い連中も多い地域だったが、
どうみても我々はその筋には見えない連中ばかり。
店のマスターも女の子もカウンターの奥から出てこない。
そしたら耳ざとい奴が、マスターと女の子の会話を聞きつけた。

「警察」「通報」「でも跡が」とかわけのわからん話をしている。
するとしばらくして、妙に目つきの悪い連中が団体でご来店、
我々の周りを取り囲むように席に着く。
なんだ?と思っていたら、仲間が笑い出した。
「またお前、間違えられてるぞ」と大爆笑。
そう、店の馬鹿なマスターが、お手柄頂戴とばかりに
我々を団体関係者だと思って警察を呼んだのだ。
残念ながらこちとらは生臭い現場も知っているライターや
元学生運動の闘士だった連中ばかり。
このまま居座ってやれ、とコーヒーは追加するわ、
食べ物は注文しまくるわで店に居座ってやった。

当然、周りの連中くぎ付け。
2-3時間粘ったところで「さあ行くか」と立ち上がると周りもざわつく。
しかも頭に来ていたせいもあって,
勘定も万札を数枚たたきつけてやったからマスター真っ青。
慌てて席を立とうとする公安らしき連中に、
この人たちの分も驕りだ、と先制パンチ。
店を出て各々の仕事場に向かう道中も、
あとをつけられたといってたやつもいたが、
ちょっとした事件で知り合った警察関係者に電話、
大迷惑してるんだけど、とだめ押し。

それで助かったが、あれがなかったらしつこく追い回されてたんだろうな。
ああ、その喫茶店?わざとちょこちょこ顔を出してやりましたよ。
どうやら雇われマスターだったらしき男,あっさりクビ。
ウェイトレスも変わってました。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-

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