目端に映るもの

 私は外出する時は大体の場合原付に乗っています。
 私の住んでいるアパートの近くは急な坂道が多く、近くにスーパーやコンビニも無いためろくに買い物も出来ないからです。
 坂道を登ったり下ったり長い住宅街を抜けるのですが、2年ほど前、道の脇に変なものが見えるようになったのです。

 もちろん運転中なのでまっすぐ前を見ているのですが、視界の左右の端はぼんやりと見えます。
 離れた距離から見ていた時にはなかったはずのものが近づくと、視界の端に突然見えるようになるのです。
 もちろんぼんやりとしか分からないので、それら全ては推測の域を出ませんが、腰を丸めた老婆のようなものでした。
 住宅街に入る直前の、朽ちかけたガレージの近くにあるカーブミラーの横に小さく佇む老婆。
 最初は歩行者を見逃していた、危なかった、とヒヤヒヤしていたのですが、以来その道を通るたびに毎回同じことを体験するようになりました。
 今に至るまで、ずっと、です。
 当初は不気味だと思っていましたが、老婆がこちらに接触してくることもなく、害もないので2週間も経つと正直どうでもよくなりました。
 見間違いかもしれないし、そうでなかったとしても、無害ならば過剰に気にする必要もないと考えたのです。
 しかし、この件はそれで終わりはしなかったのです。

 目端に老婆が見えるようになってから1カ月後のことです。
 やはり原付に乗っている時、別の場所で同じようなことを経験するようになりました。
私が住むアパートの近くのゴミ捨て場に、3人くらいの子どもがいました。
 男の子3人組が走り回っているのです。また目端にだけ見えるのです。
 さすがにギョッとして原付を止め、振り返って見ると誰もいません。
 子どもたちもまた現在も見え続けています。
 驚くべきことに、住宅街付近で原付に乗っている時だけ、様々なもの達を見かけるようになっていきました。
 坂道を下りた先のスーパーの駐車場にいる警備員のようなおじさん、小学校の校門前にいる若い女性、畑の近くにある自販機の横で佇むおじさんなどが目端に映るようになっていきました。
 どんどん私の視界の端に現れるのです。

 できれば私の見間違いであって欲しいと思っています。
 立地の悪さを差し引いても、今住んでいるアパートは広くて、新しい部屋の割に家賃が安めなので、条件の良い次の引っ越し先も決まりません。
 彼らは決して私に接触をとるわけでもなく、また血だらけというわけでもないので、恐ろしくはありません。
 ただ、私が原付に乗って住宅街付近を走っている時にだけ目端に映る彼らが、だんだんと住宅街の住人として私の視界を侵食しているように感じられて、何とも言えない得体の知れなさを覚えるだけです。

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