父の癌が発覚し、手術を受けた。
手術中に分かった事だが、父は予想外に血管が脆く、
大量の出血をしてしまい、一時は危ない状態に陥ってしまった。
幸い命は取り留め、少し元気になった頃に見舞いに行った。
病床の痩せた父は、見た目こそ弱々しく小さくなっていたが、
変わらぬ笑顔で迎えてくれて、面白い臨死体験を語ってくれた。
気付くと父は、生家の大広間にいた。
家は大きく、裕福だったそうだ。
そこへ13人兄弟の先に亡くなった兄や姉が出てきて、
「よく来た、よく来た」
と、お酒を振る舞ってくれて、楽しく宴会をしたという。
すると、いつの間にか父の目の前に、
まだ父が9歳の時に亡くなった母親が現れた。
自分よりもずっと若い姿で現れた母親を前にして、
父は懐かしさで目が潤んだそうだ。
母親は父に向かって、 「お前は、もう、帰りなさい」と言う。
まだまだ飲み足りなかった父だが、
母親の言いつけに逆らうことは出来ないと思ったそうだ。
素直に、 「はい」と返事をし、大広間を出たところで、
病院のベッドで目が覚めたと言う。
「あの世が、あんなに楽しい所なら、俺も早く逝きたいと思ったよ」と父。
三途の川も、お花畑も出てこない臨死体験だ。
一方、知人が心臓の手術を受けた時の事。
「心臓を数十分止めて、手術をするんだよ」と知人。
「じゃあ、臨死体験できるね!体験談、教えてね」
「うん、分かった!」
私はドキドキワクワクしながら、知人を見送った。
手術は無事に終了し、退院した知人に臨死体験について聞いてみた。
「それがさぁ、夢も見なかったんだよ。
麻酔されて、目を1回閉じて開けたら、もう20時間経ってたんだ。
自分の感覚としては、瞬きを1回しただけって感じ」
臨死体験をするには、心臓を止めただけでは、駄目みたいだ。