交通事故現場

まあ自慢じゃないが、若いころは取材だ調査だと、
3年で10万キロ以上走ることもざらだった。

新車の国産高級セダンが、3年車検で査定ゼロになるくらいだから
無茶苦茶な走り方得押していたのはお分かりいただけるだろう。
その分、自動車事故にもよくあった。
私も粗忽モノだけに軽微な追突事故をちょこちょこ起こしていたし、
普通に高速道路を走っていて追突される…
渋滞でもなんでもないところでなんてあほらしい目にも合った。
まあ変な言い方だが、
事故慣れしていた私が一番恐ろしい目をした事故の話をしよう。

場所は大都市圏の幹線道路、早朝のせいもあって、
それほど車も込み合っていない。
前を走っていたのは、どこにでもある商用車、カローラバンだった記憶がある。
別に何の変哲もない車だし、運転しているのはどうやら
中年の営業マン風の男性だった。
急ぐわけでもなし、とゆっくり走るその車の後を
結構な時間追走いていた形になった。

その時、変哲もない車に妙な違和感を感じた。車が何か妙に歪んで見えるのだ。
しかも何か白っぽいもやみたいなものが車の周りに立ち込めている。
私は漠然とラジエーターでもいかれてるんじゃないか、と思い、
数回パッシングをしたが反応はない。
そのうち車も増えてきて、道路も結構混雑してきた。
にも拘らず、前の車は減速するどころか急に加速し始めた。
何かおかしくないか、と首をかしげていると、結構大きな交差点に差し掛かる。

信号は青から黄色に変わりかけたところ。
カローラバンの前方には建設資材らしき鉄骨を積んだ中型トラックがいた。
こちらとしては当然トラックは信号で停止すると思って減速していたのだが、
次の瞬間、爆発音にも煮たすさまじい音がして、前が真っ赤に染まった。
なんとカローラバンがノーブレーキでトラックに突っ込んだのだ。
真っ赤に見えたのは、フロントガラスを突き破り、
鋼材がドライバーの体を刺し貫いたせいだった。

もう恐怖で言葉も出ない。
周囲をはしていた車からも人が下りてきて現場は騒然となったが、
私はあの歪んだ車の映像と、白い靄が頭から離れなかった。
警察にも目撃者ということで事情を聴かれたが、
もちろんそんなことは言えやしない。
ノーブレーキで突っ込んだ、としか言えなかった。

その場所は結構事故が起きやすい場所ではあったが、
そんな凄惨な事件は初めてだ。
あの車の映像とモヤは、ドライバーの行く末を暗示していたのだろうか。

後で報道を見ると居眠り運転による自爆、と発表されていたが
本当にそれだけなのか。
全国で起きる交通事故、たいてい原因はスピード釣果とか車間距離不所持、
わき見とか言われているが、私は疑問を持っている。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-

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