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失礼しました

ある病院での話。
私も長年、その病院に通っているのだが、
2階の一部に霊道が通っていることがはっきりわかるのだ。

どうやら近くの寺と墓地の間の通り道になっているらしく、
しょっちゅういろいろな例が行き来している。

不思議なことだが、別に恐怖感はないのだがあんまり気分のいいものではない。
でもあれだけは不思議だな、と思った経験談。

今年の春先の話である。

特殊な注射を受けるために、私はそのあんまり行きたくない部屋に向かった。
そしたら普通、二人で詰めてる看護士が一人しかいない。
しかも何か不安そうな顔をした若い子。
「どうも」と声をかけて部屋に入ろうと思ったらいきなり
「どしーん」と何かに激突。

余りに痛みにその場にしゃがみこみそうになったら、目の前にずんぐりむっくりな中年のおっさんが頭を押さえて座り込んでる。
思わず「失礼しました」と声をかけたら、
「いいえこちらこそ」と妙にくぐもった声で答える。

何とか体勢を立て直して看護師のほうを見たらもう号泣状態。
「どうしたの」と聞いたら、
「隅野さん誰と話してるんですかー、いきなりすごい音がするし、だれもいないはずの部屋で会話が聞こえるし…もう私いやだ」
と収まりがつかない。

どうやらその子も多少なりとも霊感があるようで、
この部屋で勤務するのが何よりも嫌だったという。

「いや別に、何をするわけでもないから。
気が付かないふりをしていれば大丈夫だよ」
と懸命になだめているところに主任看護師が到着。

泣き顔の看護師を見て、いきなり私をにらみつけてきた。
こりゃいかんと、経緯を説明すると
「私はさっぱりわからんけど、時々この部屋に来る患者たちがなにかいるっていうんだわ」とけろっとしたもの。

だけど不思議だったのは、ふつう霊堂を通る奴は質感がない。
だけど今日のおっさんは、例えるならラッシュアワーの駅の階段で誰かと激突したような質感があるし、妙に向こうもぶつかってびっくりして、痛そうな顔してるし、謝罪はするしわけわからん状態。

主任に人相風体を伝えると
「それ昨日亡くなった患者さんかも」
と、ここにきて青くなった。

どうやらまだ意識がはっきりしないうちに、病院内の霊道に迷い込んでしまい、行き場が分からずおろおろしていたようだ。

それでまだ質感があったんだと納得。
ここからは笑い話。

最初に泣き出した看護婦、小柄で童顔、最初は看護学生と思うくらいに見えてたのだが、聞けば30を越したママさんだという。
思わず「あんたが一番怖いわ」といったら、思いっきり一番痛いところに注射しよった。
一日で2度、怖い思いと痛い思いをしたお話。
30代半ば、子供も二人いるとのことでこれが一番怖かった。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-
朗読: 怪談朗読と午前二時

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